灯台下暗し、とはこのことだ。
 事務所近くに、随分前から気にはなっていたが、まだのれんをくぐったことのない小料理屋があった。

 正確に言うと、何度か足を運んだのだが、満席で入れなかった。店の売り物は「牛すじ辛スープ。」入り口の扉に書いてあるのだから「味には相当自信があるんだろうな」と、漠然と思っていた。

 先日、小雨が降っていたため、遠出を避け、フラリと店に入った。すぐさま名物の「牛すじ辛スープ」を注文した。

 次の瞬間、比喩ではなく私は言葉を失った。「………」。美味しすぎて言葉が出てこないのだ。

 やや辛めだが、コクがあって、牛のエキスが舌にからみつく。こんなスープは初めてだ。

 この小料理屋は老夫婦2人でやっている。聞けば約40年前、店を出す時に夫婦で「何か売り物になる料理をつくろう」と思い立ち、試行錯誤を経て今の味にたどり着いたというのである。

 ちなみに店の名前のイニシャルはI。防衛省の正面から徒歩5分ほど。初めてのれんをくぐって以来、すっかり私は常連客である。

編集長N


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