先日、今年になって初めてアルコールを抜いた。ビールも日本酒も焼酎もワインも、ただの一滴も口にしなかったのだ。

 別段、自慢することではないかもしれないが、夜の12時を回った時には妙な達成感があった。

 実はその前日も“禁酒”を決行しようとしたのだが、原稿を1本書き上げた瞬間、白い泡の誘惑に勝てず、缶ビールを1本開けてしまった。

「あそこで我慢していればなぁ……」
「いや、あそこまで我慢したから、あの1杯がうまかったんだよ」
 心の中に住んでいる2人の自分が、そんな会話をかわしていた。

 それだけに、一滴も口にしなかった翌日の心の高ぶりといったら尋常ではなかった。
「やればできるんだなぁ……」

 この日をアニバーサリーにしようと、私は手帳に小さな字で「NAD」と書き込んだ。もちろん「ノン・アルコール・デー」という意味だ。

 ところが、である。それを目ざとく見つけた秘書のH女史から、すかさずチェックが入った。
「何ですか、この“ナッド”というのは? 新しいバーにでも行ったんですか?」
 
 かくして、私のささやかな自己満足は粉々に打ち砕かれたのであった。

(編集長N)
◎バックナンバーはこちらから