ドラフト会議で2度指名を受けながら、憧れの球団への思いは変わることはなかった。それだけに長野久義のルーキーイヤーから大きな注目が集まった。3拍子揃った新人王最有力候補は、噂にたがわぬ活躍を見せている。優勝争いを繰り広げるチームでは外野手の定位置争いも激しさを増す。25歳の大物ルーキーに当HP編集長・二宮清純が直撃インタビュー。俊足・巧打の「背番号7」にプロの世界で感じる厳しさや今後の課題について訊いた。
二宮: 1年目のシーズンでここまで結果を残してきています。
長野: いや、自分ではまだまだ物足りないと思っています。バッティングの成績ももちろんですが、守備と走塁では自分が思っていた以上にプロの世界で通用していないという感覚があるんです。盗塁もそこそこ走っていますが、コーチからは「スタートを思い切っていけ」と言われています。守備でも球際の弱さが気になります。抜けそうな打球を必死に追っていっても、グローブに当てて落としてしまうことが結構あるんです。自分はどうしても大事に行き過ぎてしまうところがあるので、もっと大胆にいかなければいけないと感じています。

二宮: とはいえ、ホームランも18本でしょう。原(辰徳)監督の1年目が22本です。この数字は見えてきています。
長野: 数字上ではそう言えますが、これからも厳しい戦いがあると思うので、なかなか難しいと思います。本当にプロのレベルは自分が思っていたよりも高くて大変です。毎日試合があるということもありますが、仮に1試合打てなくても、すぐに次の日の試合がやってくる。バッティングの修正が簡単ではありませんし、気持ちもうまく切り換えていかなければいけない。ここが難しいですね。

二宮: バッティングフォームについてお聞きします。随分とホームベースから離れたところで構えていますね。
長野: あの位置で構えるようになったのは、大学3年の秋からです。細かいデータを取っている後輩がいて、僕が外角のスライダーを振るクセを指摘してくれたんです。それを解決する方法を探している時に「もしかして、打席に近いんじゃないですか?」とアドバイスをくれたです。それでベースから離れて立つようになって、外のスライダーに簡単に手を出さなくなった。今ではこの距離感がしっくりきています。ただ、本音を言えばもう少し近くに立ちたいなとは思っているんですけど。

二宮: これまで対戦したピッチャーで、今まで見たことのないようなボールを放る投手は?
長野: 皆さん本当にすごいですのですが、その中でも特に杉内(俊哉、福岡ソフトバンク)さんですね。全ての球種が同じ腕の振りなのに、真っすぐ、スライダー、チェンジアップとどのボールが来るのかわかりませんでした。真っすぐだと思って打ちに行くと、ヒュッと曲がってしまったり。ちょっとお手上げです。あとは前田(健太、広島)投手。スライダーの曲がりがすごく遅いので、これもギリギリまで真っすぐだと感じるんです。曲がりも大きいので苦戦します。それに、大学の同期で世界選手権では一緒に代表だった岸(孝之、西武)も全然打てませんでした。真っすぐのコントロールもいいし、あのカーブがグッと浮いてくるんです。一回浮いてからヒュッと落ちる。2打席対戦しましたが、全くダメでしたね。

二宮: バッティングで特に気をつけている点は?
長野: これは入団してからずっと言われていることでもありますが、下半身をしっかり使って打つということを心がけています。

二宮: キャンプ中には滑り台を使って練習したと聞いています。
長野: はい。傾斜のある台を左足で踏みながら練習してきました。左足を高くして踏みこみすぎて前にいかないように、右足がしっかりと回るように意識するためです。つまり、重心を残すということですね。この練習を取り入れたことで、ボールを長く見られるようになり、以前よりも変化球に対応できるようになったと思います。

二宮: 1年目でこれだけの数字を残すだけでも大変なことですが、巨人ではライバルがいっぱいいます。その中で勝ち抜いていかなければなりません。
長野: たしかに、レベルが高いですから大変だと思うこともあります。試合に多く出たいという気持ちもありますが、チームが勝つことが一番です。

二宮: 原監督から聞いたアドバイスで印象に残っているものは?
長野: 僕は交流戦の時に調子を崩して本当に打てない時期があったんです。その時に監督が「自分のやっていることを疑うな」と声をかけてくださいました。今思えば、その頃は「打ちたい、打ちたい」という気持ちが前に出過ぎていて、技術に問題があったわけではなかったんですね。結果を出したくて焦ってしまい難しいボールに手を出すことも多かった。そこで試合前の練習で先ほどのような言葉を言ってもらったんです。その言葉で自分の気持ちが吹っ切れました。だいぶ楽になりましたし、本当に大きな一言でした。

<18日発売の『ビッグコミックオリジナル』(小学館2010年10月5日号)に長野選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>