「齊藤勝」――6年前の夏、2年生エースながら2試合連続で完封勝ちを収め、チームをベスト8に導いたのが彼だ。修徳高校の先輩である高橋尚成(エンゼルス)の再来と言われ、高校野球ファンに強い印象を与えた。順風満帆だと思われた野球人生だったが、その後はケガに泣かされ、満足のいくピッチングはできなかった。そして社会人でも泣かず飛ばずのシーズンを送り続けた。そんな彼が入社5年目にして、ようやく主戦として活躍した今シーズン、プロのスカウトの目にとまった。ピッチングスタイルも自身の性格も5年前とはまるで違うという齊藤。これまでで一番強かったという今シーズンにかける思いを訊いた。
―― ドラフトで指名された時の心境は?
齊藤: 自分自身はそれほどドキドキはしていませんでした。当日の朝刊にも有力候補に僕の名前はなかったので、大きな期待はしていなかったんです。自分の名前を見つけた瞬間は、やっぱり嬉しかったですね。でも、今シーズンを終えて、自分はまだまだやることがたくさんあるな、と感じていたんです。だからすぐに、そうウカウカはしていられないなという気持ちになりましたね。

―― 5年前、高校から創部1年目のセガサミーに入社。そのきっかけは?
齊藤: 大学進学は全く考えていませんでした。母子家庭だったので学生になるよりも、早く自立したいという思いが中学2年の頃からずっとあったんです。それで三菱ふそう川崎のテストを受けたのですが、落ちてしまって……。どこも行く宛てのなかった僕をセガサミーが拾ってくれたんです。

―― 入社して5年。自分が成長したと思える部分は?
齊藤: 大人になったことですね(笑)。高校までは、それこそ“お山の大将”でいたのですが、社会人という大人の世界に入ったことで人間的に大きくなれたかなと。入社したばかりの頃は、気に入らないことがあると、すぐに反発していたんです。気持ちが顔や態度に出てしまうので、先輩方ともうまくいかないこともありました。

―― 変わるきっかけとなったのは?
齊藤: 来シーズンからコーチに就任される天野喜英さんにはすごくお世話になりました。1年目、同部屋だったのですが、キャッチャーだったということもあって、いろいろと話を聞いてくれたんです。そしてほとんど毎日お説教されました(笑)。「オマエの気持ちもわかるけど、そうじゃないだろう」と。大学ではなく、社会人を選んだのは間違っていなかったなと、つくづく思いますね。

 生き残るための選択

 高校まではストレートで押す力強さが自慢のピッチャーだった斉藤。だが、セガサミー入社後は技巧派ピッチャーに姿を変えた。今では自ら「気持ちは強いが、ピッチング自体に強さはない」と語るほどだ。果たしてピッチングスタイルの変化には、どんな理由があるのか。

―― 理想のピッチングとは?
齊藤: 打者がとんでもなく崩れて、ボテボテの内野ゴロに打ち取ったときなんかは、「あ、はまったな」と快感を覚えますね。

―― 入社後、技巧派に転身した理由は?
齊藤: 高校を卒業して1年目、それまで通用していたはずのボールが、社会人のレベルでは全く通用しなかったんです。それで「ここで生き残るためには何かを変えないとダメだな」と。緩急をつけて、どれだけ打者を崩すことができるか。それが今の生命線となっています。でも、最初からうまくいったわけではないんです。変わるのにはすごく時間がかかりました。というのも、スピードにこだわりたいという気持ちがなかなか消えなかったんです。それで自分の思うように投げられなくなってしまった。それがずっと続いていたんです。正直、社会人に入って、ちゃんとチームに貢献できたと思えるのは今シーズンが初めてでした。

―― 開花したと思えた今シーズン、印象に残っている試合は?
齊藤: 優勝した4月の静岡大会ですね。その時、初めてチームの勝利に自分も関われたという気持ちになりました。でも、夏の都市対抗2次予選では3試合中、2試合に先発をさせてもらったのですが、最後の試合は僕で負けたんです。今でもその試合を思い出すと、「自分はまだまだだ」と気が引き締まります。

―― ピッチングでこだわっていることは?
齊藤: 投げていると、時々バッターと呼吸が合ってしまう時があるんです。例えば、スライダーを投げて、バッターが全く打てなさそうな空振りをしたとします。でも、次にセットに入った時に「あ、今と同じスライダーを投げたら危ないな」って感じることがあるんです。どうして、というよりも直感ですね。そういう場合は、たとえキャッチャーがスライダーのサインを出しても、同じスライダーは投げません。少し球速や曲がり幅を変えるんです。そういうことが今シーズンはある程度できたかなと思いますね。

―― プロでの目標は?
齊藤: 今シーズンに関しては「結果」という2文字を追いかけてやってきました。でも、プロではまだ自分がどういうレベルにいるのかがわかっていません。だから、まずは入団してみて自分の力を見極めてから、目標設定したいと思っています。最終的にはローテーションに入って、チームに貢献すること。とはいっても特別、先発にこだわってはいないので、必要とされているところで頑張りたいです。

 入社後、4年間は「真っ直ぐにこだわって、いきがっていた」という斉藤。そんな彼が今年、変貌を遂げたのはそんな自分に飽きたからだという。「いい加減やれよ」。そんなふうに思いながら、自分で自分を鼓舞してきたのだ。それは周囲も気づいていたようだ。「今年は特に、何かを変えようとして頑張っているのはわかっていました。マサは自分がやると決めたことはしっかりとやり通せる。だからこそ、周りも『こいつのために打ってやろう』という気持ちになるんです」と、チームメイトで同じくプロの世界に進む宮崎祐樹は語る。奇しくも、日本ハムにはドラフト最大の目玉とされた斎藤佑樹(早稲田大)が入団する。同じピッチャーで「サイトウ」同士。今は“佑ちゃんフィーバー”に沸く札幌ドームに、自分の名がこだまする日を虎視眈々と狙っている。


齊藤勝(さいとう・まさる)プロフィール>
1988年1月6日、神奈川県生まれ。小学5年から野球を始め、中学3年時に投手となる。修徳高2年夏には甲子園に出場し、2試合連続で完封勝ちを収めてチームをベスト8に導いた。3年春のセンバツにも出場したが、初戦敗退。高校卒業後、セガサミーに入社。5年目の今シーズンは先発の柱として活躍し、チームに貢献した。187センチ、81キロ。左投左打。

(聞き手・斎藤寿子)

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