斎藤佑樹フィーバーで今季、例年以上の注目を集めている北海道日本ハム。このチームのエースといえばダルビッシュ有である。だが、この左腕も忘れてはいけない。今季プロ6年目を迎える武田勝だ。昨季は自己最多の14勝(7敗)をあげ、ダルビッシュ(12勝)を上回ってチームの勝ち頭となった。130キロ台のストレートながら、パ・リーグの強打者たちを打ち取れる秘密はどこにあるのか。二宮清純が春季キャンプ地の名護を訪ねた。
(写真:細身で物腰も柔らかく、「私服だと、まずプロ野球選手と気付かれない」という)
二宮: 昨季はチームトップの14勝。打者優位の現代においてはすばらしい成績です。今年はいかがですか?
武田: 去年は4位で終わって、チームとしてはすごく残念だったんですけど、その分、プロに入って初めて長いオフを経験しました。体の疲れをしっかり取った上で、キャンプに乗り込むまでに体をしっかりつくれたので状態はすごくいいです。

二宮: となると、今季はさらなる勝ち星が期待できそうですね。
武田: いやいや。去年は出来過ぎです。相性のいいソフトバンクに合わせてローテーションを組んでいただいたりした面もあったので、今年はどの球団相手でも任されるようにしたいですね。

二宮: 昨季のソフトバンク戦は7試合に登板して5勝0敗、防御率1.07と、ほぼ完璧に相手を封じています。その理由は?
武田: 怖さを持って投げているからでしょうね。僕がプロ入り前からテレビで見ていた選手も多いですから、緊張感を持って投げているのが、良い方向に出ているのではないでしょうか。

二宮: 武田さんの武器といえば、鋭く曲がるスライダーに、タイミングをずらすチェンジアップ。言える範囲で変化球を投げるコツを教えてください。
武田: スライダーもチェンジアップも握りは普通です。ひねってしまうと変に回転がかかってしまうので、そのまま投げます。実は僕、ヒジが曲がってしまって、真っすぐにならないんですよ。ヒジのケガを何回も繰り返しているうちに欠けた骨がくっついて曲がったまま固まってしまった。だから、逆にこの角度を利用して投げればいい。

二宮: へぇ〜、それはまさにケガの功名ですね。
武田: これは僕の財産ですね。病院の先生にも「今、一番いい状態なので、下手に手術をしないほうがいい」と言われています。シュートもヒジの曲がりを生かして投げるんです。真っすぐの握りで手首を寝かせて投げる。これでひねらなくても勝手にシュートしてくれます。
(写真:ヒジが曲がっているため、「腕立て伏せをするのはバランスが悪い」と笑う)

二宮: それらの変化球と、ストレートを組み合わせてコントロール良く投げる。これこそが武田さんの強みではないでしょうか?
武田: 僕の中ではコントロールが良いとは思いません。ピンポイントを狙って投げているわけではないんです。ただ、なるべくストライクゾーンで勝負しようとは意識しています。ボール先行になると苦しくなりますから、ストライクゾーンに投げて1球で打たせたり、ファールでカウントを稼ぐ。そのためにはスピードよりもキレが大事です。ボールのキレは常に追求しています。ストレートは133キロくらいしか出ませんけど、打者には140キロくらいに感じるボールを投げたいんです。

二宮: 日本ハムは絶対的なエース、ダルビッシュ投手がいます。この存在はチームにとって大きいでしょう?
武田: 彼がいることで僕たちはそれほどプレッシャーを感じることなく投げられます。いるといないとでは大違いですよね。彼とはタイプは全く違いますけど、野球に対する気持ちは一緒。勉強になることは多いです。一緒にやっていてワクワクするというか、見てみたいという投手は現役でもそうはいません。そんなピッチャーが同じチームにいるのは大きいですね。ただ、スピードが全然違うので、隣のブルペンで投げるのはイヤですね(笑)。

二宮: 斎藤投手の印象は?
武田: 話してみると普通の子ですよ。低めにボールが集まりますし、制球力がある。実戦向きのピッチャーではないでしょうか。本人はプレッシャーを感じているはずなので、僕らはそれをカバーしながら、やりやすい環境をつくってあげたいと思っています。

二宮: 左の中継ぎ要員からスタートして、今や日本ハムの左のエースと言える存在です。高橋尚成(エンゼルス)のケースをみれば、いずれはメジャーリーグという思いも出てくるのでは?
武田: ここまでは自分が思い描いた方向とは逆の野球人生ですね(笑)。これからも、そうなっていくかもしれません。尚成さんとは球種も似ていますし、すごく参考にさせてもらっています。メジャーに挑戦するかどうかは別として、向上心があれば、ちょっとずつ良くなっていくと思うので、その気持ちは持ち続けたいです。

二宮: 同じ左腕の山本昌投手(中日)は45歳になっても、現役で活躍しています。特に技巧派は経験を重ねれば重ねるほど、それがアドバンテージになる。これからの活躍を楽しみにしています。最後に今季の目標を。
武田: 去年は出来過ぎなので、まずは2ケタ勝つことが目標です。春先がいつも良くないので、最初から安定した成績を残してチームの優勝に貢献したいです。まぁ、成績は後からついてくればいいかなと感じています。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2011年4月5日号)に武田勝投手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>