さすらいのクローザーは、今日もマウンドに立っている。
 BCリーグ・新潟アルビレックスBCの高津臣吾。今年11月には43歳を迎える。NPBでは歴代1位(当時)となる286セーブを記録。ヤクルト黄金時代の一翼を担った。2004年にはメジャーリーグに挑戦し、08年は韓国、10年には台湾でもプレーした。マイナーリーグも含め、さまざまな環境で野球を続けてきたサイドスローが貴重な経験談を二宮清純に語った。
(写真:クローザーの第一条件には「体が強いこと」をあげた。Photo by 真崎貴夫)
二宮: 高津さんはメジャーリーグの華やかな舞台だけでなく、厳しいマイナーリーグの世界も体験しています。実際のマイナー生活はいかがでしたか?
高津: マイナーはちょっとこのBCリーグに似ているところがありますね。選手は25人で、監督とコーチが合わせて3人いて、スタッフも何人かだけ。トレーナーもいるけど、他の運営の仕事も手伝っている感じです。もちろん生活面では大変なところもありました。試合前の食事がハンバーガー1個だったり、長距離移動が大変だったり。
 でも、マイナーにはいろんな国からメジャーでの活躍を夢見る人間が集まっていて、プレーする分にはおもしろい。1Aや2Aから上がってきた選手もいれば、メジャーから落ちてきた選手もいますし、それぞれに個性がある。荒削りでもパワーがあったり、非力だけど技術があったり……。これから成長してメジャーに行くんだろうなという若手が見られて楽しかったですね。

二宮: 高津さんほどの経験があれば、「コイツは成功しそうだ」といった予測がつくのでは?
高津: でも、意外と「ダメかな」と思った選手が今ではメジャーのクローザーになったり、主軸になったりしますからね。人間ってどこで化けるかわからないなと感じますよ(苦笑)。
 たとえば今、パドレスのクローザーをやっているヒース・ベル。彼とはメッツのマイナーで一緒にプレーしましたけど、当時は敗戦処理でしたからね。「オレはもう、このチームを出たい」とグチをこぼしていましたよ。そしたらトレードでサンディエゴに行くことになって、セットアッパー、クローザーと一気にブレイクした。3年連続でオールスターにも選ばれて、すっかりリーグを代表する投手です。
 メッツの外野手のエンジェル・パガンもマイナーにいる時は、特別目立つ存在ではありませんでした。それがトレードや主力のケガといった何かの転機で大きく変わることがあるんだなと感じましたね。

二宮: 洋の東西を問わず、そのワンチャンスを掴めるかどうかが成功の条件なんですね。
高津: そうなんです。メジャーとマイナーを行ったり来たりしている選手はやっぱりダメですよ。チャンスに一気にガッと掴まないといけない。チャンスをチャンスと気づいていない選手も結構いるのでもったいないなと感じますね。

二宮: 当時、一緒にやっていた選手で日本に来た:-Dは?
高津: カブスのマイナーにいた時には(マット・)マートン(現阪神)や(マイカ・)ホフパワー(現北海道日本ハム)と一緒でした。マートンに関しては、日本に行くと聞いた時に「絶対に打つだろうな」と思いました。
 一昨年、僕がジャイアンツ3Aのフレズノにいた時に、彼はロッキーズのマイナーで4番を打っていたんです。長打はあまりない4番でしたが、引っ張れるし、流せるし、広角に打っている。確実に野手の間を抜ける鋭い打球を飛ばしていました。「これは日本向きのバッターだなと思っていたら、当時、阪神の駐米スカウトをしていた(トーマス・)オマリーが見に来ていたんですよ。彼とはヤクルト時代、チームメイトでしたし、ちょうどフレズノの打撃コーチに(ヘンスリー・)ミューレンもいたので、3人で「アイツは日本で打つだろうね」って話をしていましたね。
(写真:魔球シンカーは「指から離れたボールがブンと振った腕を後ろから追い越していく」感覚で投げる。Photo by 真崎貴夫)

二宮: いろいろなリーグを渡り歩いてきただけに、もし高津さんがスカウトを務めたら、相当な掘り出し物が見つかるかもしれません。
高津: 実は僕、バッターのスカウトをやりたいと思っているんです。対戦してみると、その選手の特徴や性格がよく分かる。「コイツ、意外とスゴイな」とか「××に行ったら成功するんじゃないか」といったことをよく感じますね。逆にピッチャーのほうは誰が成功するのか分からないです(苦笑)。

二宮: 今季は東京ヤクルトのウラディミール・バレンティンあたりが新外国人で活躍しています。日本で結果を出すためには何が必要でしょうか。
高津: 日本に限らず、バッターもピッチャーも頭が悪い選手はダメですよね。研究熱心、勉強熱心で広角に打てないと厳しい。バレンティンとの対戦経験はありませんが、おそらく日本の野球をよく理解しているのだと思います。

<現在発売中の『小説宝石』2011年8月号(光文社)では、高津選手のクローザー哲学など、さらに詳しいインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>