今季限りでユニホームを脱いだ山本昌(元中日)が32年間の現役生活で対戦した打者は、のべ1万3862人にのぼる。その中で、最も脅威を感じたのが北海道日本ハムの中田翔だという。「あれは彼がルーキーの時のこと。オープン戦で僕は彼から三振を2つとった。驚いたのは、そのスイングの速さ。バットとボールが40~50センチ離れているのに、マウンドにまで音が聞こえてきそうでした」

 

 ベンチに帰るなり立浪和義が血相を変えて飛んできた。「山本さん、中田のスイングすごかったでしょう?」「あぁ、びっくりした」「僕が今まで見た中で、一番速いですよ」。野手の立浪がそういうのだから、これは本物だと山本は確信したという。

 

 いったい中田のバットスイングはどれくらい速いのか。テレビ朝日の「報道ステーション」が強打者のスイングスピードを測る企画をやっていた。それによると166.9キロ。2位の柳田悠岐(福岡ソフトバンク)が157.7キロだから突出している。

 

 かつて、「誰よりも速くバットを振ること」をテーマに掲げ、打席に入っていた打者がいた。通算567本塁打の門田博光である。

 身長170センチの門田はプロ野球選手の中では小柄な部類に入る。どうすれば、ボールを遠くへ飛ばせるか。試行錯誤の末にたどりついた結論が「速いスイングで投手をねじ伏せる」ことだった。近くで耳を澄ませたことがある。刀が風を切り裂くようなビュッという音。背筋が寒くなったものだ。

 

 スイングスピードとは別にMLBには打球の速さを示すデータがある。MLBのウェブサイトによると「EXIT VELOCITY」すなわち“出口速度”の最速はジャンカルロ・スタントン(マーリンズ)の120マイル(約193.1キロ)。昨季のナ・リーグのホームランキングだ。2位ネルソン・クルーズ(マリナーズ)の119マイル(約191.5キロ)、3位マイク・トラウト(エンゼルス)の118マイル(約189.9キロ)と続く。

 

 そんな折、阪神のドラフト1位高山俊(明大)のスイングスピードが161.8キロに達するという話を聞いた。東京六大学野球記録を塗り替える通算131安打を放った高山にはアベレージヒッターのイメージがあったが、巧いだけではなさそうだ。ついでに出口速度も知りたいところだ。

 

<この原稿は15年10月28日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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