世界体操競技選手権大会の男子団体総合決勝が28日(日本時間29日)、英国・グラスゴーで行われ、日本代表が270.818点で優勝した。団体での世界選手権制覇は1978年のフランス・ストラスブール大会以来、37年ぶり。世界選手権7連覇のかかっていた中国代表は、日本と約1点差の3位。2位には270.345点で地元の英国代表が入った。予選を1位で通過した日本は、第1ローテーションの床運動(ゆか)で2位に2点差以上をつける断トツトップに立つ。好調な滑り出しを切ると、その後はミスもあったが、最後まで首位を譲らなかった。今大会で出場権を獲得した来年のリオデジャネイロ五輪に向けて、大きな弾みをつけた。

 

 個人総合の絶対王者・内村航平(コナミスポーツクラブ)が渇望していた団体世界一の座。2008年北京五輪以降、ずっと届かなかった勲章をついに手にすることができた。

 

 0.1点――。1年前、僅かに届かなかった表彰台の頂点へ。体操NIPPONは世界一奪還を目指し、予選は2位の中国に1.757点差をつけるトップ通過を果たした。決勝は中国と第1班に入った。第1ローテーションはゆか。日本は内村、白井健三(日本体育大)、早坂尚人(順天堂大)の3人で臨んだ。トップバッターは全6種目にエントリーした内村だ。頼もしいキャプテンが先陣を切り、チームを牽引する。内村の演技構成の難易度を示すDスコアは6.9点。予選では着地で手をついたルドルフも危なげなく決めた。最後の後方3回ひねりもミスなく着地した。出来栄えを示すEスコアは8.9点で15.800点を叩き出した。

 

 キャプテンに引っ張られ、若手も躍動する。長谷川智将(日本体育大)が大会直前のケガにより、欠場。早川は補欠から繰り上がった。世界選手権初出場の19歳は、予選で内村同様にミスを犯しており、13.133点と振るわなかった。予選は6-5-4制(6人のメンバー中5人が演技を実施し、上位4人の得点を合計する)だが、決勝は6-3-3制である。1人のミスが大きく響く。プレッシャーのかかる場面で早川は、Dスコアは内村を上回る7.0点の構成を選択。ミスなくまとめ、Eスコアは8点台。15.133点と早川は、得意のゆかで予選の汚名返上を果たした。

 

 日本の3人目はゆかのスペシャリスト白井だ。2年前の種目別世界王者は、1年前にラインオーバーのミスで0.1差の重みを人一倍感じている選手である。今春からは日本体育大に進学し、生活環境も大きく変わった。以前よりも逞しさが増した観のある白井。フロアの上を力強く雄大な演技を披露する。Dスコアは7.6点の高難度の構成だが、フィニッシュのF難度「シライ/グエン」(後方宙返り4回ひねり)も着地を決めて、両手でガッツポーズを作った。Eスコアも8.725点で16.325点と種目別1位のハイスコアに笑顔がこぼれた。日本は3人合計で45.166点とトップに立った。

 

 一方、最大にして最強のライバル中国は、日本への焦りから序盤で精彩を欠いた。ゆかでは2人が14点台と振るわない。続くあん馬では2人が13点台、1人が14点台と得点を伸ばせず、8カ国中7位に終わった。予選でも全体4位のゆか、同6位のあん馬は決勝でも得点を稼ぐことはできなかった。

 

 日本はあん馬で加藤凌平(順天堂大)、内村が安定した演技を実施。2人で29.766点を加える。さらに3人目の萱和磨(順天堂大)が活躍。萱は6月の全日本種目別選手権で一昨年の種目別世界王者の亀山耕平(徳洲会体操クラブ)を破って初優勝し、グラスゴー行きの切符を掴んだ。予選では全種目にエントリーし、トップ通過に貢献したが、決勝はあん馬のみに懸けていた。白井と同世代のエース候補が、初の世界選手権で美しい旋回を見せる。G難度の大技も決め、予選よりもEスコアを0.1点上げる出来栄えで、15.400点の高得点を挙げた。日本は2位の米国に2.734点差をつけて1位をキープ。中国との差はさらに6.294点と広げた。

 

 第3ローテーションのつり輪は、日本が苦手とするパワー系種目。加藤、内村、田中佑典(コナミスポーツクラブ)は3人揃って14点台とまとめた。つり輪で稼げなかった分は跳馬で取り返す。内村は今年から挑戦しているF難度の「リ・シャオペン」(ロンダートから後ろとびひねり前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり)を実施。ラインオーバーで0.1点引かれても、Eスコアは9.300点と高かった。15.533点で3人目の白井にバトンを渡した。 白井は自らの名のつく「シライ/キム・ヒフン」(ロンダートから後転跳び後方伸身宙返り3回半ひねり)を披露。着地もほぼまとめる。Eスコア9.533点と完璧に近いパフォーマンスを見せた。45.766点を加えた日本は、鉄棒で種目別全体1位の46.065点マークした米国に差を詰められたものの、1位をキープする。

 

 平行棒では加藤が、表情を変えぬ淡々とした正確な演技で15.533点を加える。しかし、2番手の田中が落下するなど、14.266点と振るわない。ここでエースがチームを救う。内村は丁寧で美しい演技を見せ、15.866点で挽回した。第5ローテーションを終えて日本は227.653点。2位の米国とは1.832点差、平行棒で追い上げてきた中国とは2.093点差をつけて最終種目鉄棒を迎える。

 

 1人目は加藤。既に国際舞台の経験も豊富な22歳は、日本屈指のオールラウンダーである。左足首故障の影響で、得意のゆかと跳馬を回避したが、ここまでのあん馬、つり輪、平行棒では安定したパフォーマンスを見せていた。4種目目となった鉄棒でも、落ち着いて丁寧な演技を披露。着地も見事に止め、15.033点をマークした。順大時代の後輩からバトンを受けた田中だったが、金メダルを意識して身体が硬くなったのか鉄棒でも落下してしまう。13.666点とスコアを伸ばせない。

 

 ここまでで暫定1位の中国との差は13.607点。悲願の世界一に向け、チームの締めを任されるのは当然、この男である。個人総合の王者に君臨し続ける内村が、演技を実施。全種目で平均15点以上は叩き出す高水準のオールラウンダーが、余程のことがない限り、13点台を出すとは思えない。しかし、団体においては彼に振り向かなかった“勝利の女神”の悪戯か、内村は離れ技のG難度「カッシーナ」でバーを掴み損ね、背中から落下した。そこで会場が大きく沸く。内村のミスを喜んだのではなく、地元・英国の最終演技者がゆかで15.766点のハイスコアを叩き出したのだ。英国は中国を抜き去り、暫定トップに躍り出た。内村に求められる点は、13.993点に変わる。仕切り直して、バーを掴んだ内村は、自らの感覚を取り戻すようにひとつひとつの技を繰り出していく。フィニッシュの伸身新月面の着地は、内村らしくビタッと止まる。

 

 最後こそ、寸分も狂いもなく正確な着地を見せたが、得点が出るまでは安堵はできない。硬い表情のまま、発表を待った。日本チーム全体は落ち着かない様子。祈るように手を組む選手もいた。14.466点――。スコアが表示された瞬間、日本の金メダルが確定した。抱き合って喜ぶ日本チーム。歓喜の輪が出来あがり、世界選手権では37年ぶり、五輪も合わせれば2004年のアテネ五輪以来の頂点に立った。

 

「(金メダルを)獲れたんですが、内容は納得できない」。内村は悲願達成にも複雑な表情を浮かべた。大トリを務めた最後の鉄棒でバシッと決めて、満面の笑みといきたかった。点数を待つ間の心境は「正直言って、勝てなくてもしょうがない」ものだったという。事実、日本は世界に誇る美しい体操を完璧に体現できたわけではない。ミスも目立ち、ライバルたちの取りこぼしに救われた観もある。それでも白井、萱の19歳コンビが躍動し、内村に次ぐ存在の加藤も安定した成績を残した。来年のリオ五輪に向けて、頂点の景色を知ったことも大きな経験値となったはずだ。

 

内村は「また課題ができてしまった」とこぼした。30日には個人総合決勝が控えている。鉄棒のミスで胸に残った不満を、まず前人未到の連覇を継続させることで払拭したい。鉄棒の落下はあったものの、個人総合の6連覇に向けて、死角はほとんど見当たらない。王者が王者であることを証明するために、内村は何度も頂点に立つ。

 

<男子団体総合決勝>

1位 日本 270.818点

2位 英国 270.345点

3位 中国 269.959点

 

(文/杉浦泰介)