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(写真:「集中力を切らさずに丁寧に投げられた」と好投した上野)

 1日、日本女子ソフトボールリーグの決勝がナゴヤドームで行われ、ビックカメラ高崎(リーグ2位)がトヨタ自動車レッドテリアーズ(同1位)を1-0で破った。ビックカメラはチーム移管後1年目で優勝。試合はビックカメラの上野由岐子、トヨタのモニカ・アボットの投げ合いとなった。ビックカメラは6回表に大工谷真波のタイムリーで先制。上野はリードを最後まで守り抜いて、完封勝利を挙げた。MVPは3位決定戦から2試合連続完封の上野が、優秀賞選手には準決勝でホームランを放ったトヨタの鈴木鮎美が選ばれた。

 

◇決勝

 3連投・上野、全試合で完投(ナゴヤドーム)

ビックカメラ高崎         1 = 0000010

トヨタ自動車レッドテリアーズ   0 = 0000000

勝利投手 上野

敗戦投手 アボット

 

 世界一のエースは、シーズンの締めくくりを完封で飾った。上野は前身のルネサスエレクトロニクス高崎から移管後1年目でビックカメラの戴冠に導いた。

 

 決勝は7年連続同一カードとなった。ビックカメラとトヨタの日本リーグ2強対決は、リーグ戦では1勝1敗。全日本総合と前日の決勝トーナメントではトヨタが制しているとはいえ、どの試合も接戦である。好ゲームを期待された最終決戦は、序盤からヤマ場を迎える。

 

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(写真:4安打完投と好投したが、1点に泣いたアボット)

 初回、先頭の山本優がアボットからセンター前ヒットで出塁すると、市口侑果が送る。1死二塁のチャンスをつくり、今シーズン13勝2敗、防御率0.58と2冠のアボットを攻め立てた。しかし3番の森さやかはショートフライに倒れ、4番のメーガン・ウィギンズの四球後、5番の大工谷は高めのボール球に手を出して三振に終わった。

 

「世界一のピッチャーがウチにいる」。宇津木麗華監督は自慢のエースをマウンドに送り、決勝トーナメントを3連投させる。先頭のナターシャ・ワトリー。ワトリーはサードへのゴロとなったが、捕球した山本が焦って送球し、ボールが逸れた。無死二塁。続く山下りらの送りバントは山本がファンブル。キャプテンを務める山本の連続エラーで無死一、三塁のピンチを迎えた。

 

 バッターボックスには長崎望未が立つ。トヨタの背番号「8」はルーティンをこなし、上野と相まみえる。バットに息を吹きかけ、“相棒”に想いを込めた。昨年の決勝では上野のチェンジアップを狙い撃ち、先制2ランを放っている。対する上野は、初球はストライクを取るも山下が盗塁を決め、無死二、三塁となった。

 

 ビックカメラは平均年齢22歳と若いチーム。最年長33歳のエースはチームを牽引する自負がある。「エラーだからこそ自分が頑張る場面」。修羅場は何度も経験してきた。だからこそ、ここで点を失うことの意味を熟知している。「先制点は与えない」。気持ちのこもった投球でマスクを被る我妻悠香のミット目がけてボールを放った。

 

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(写真:昨年は決勝トーナメントでMVPに輝いた長崎は3三振に終わった)

 カウント3-2からの7球目、上野が投じた高めのボール球。長崎に空を斬らせた。なおもピンチは続くが、上野はマウンドで仁王立ち。今シーズン4割1分1厘の巧打者である坂元令奈をピッチャーゴロに打ち取る。渥美万奈を歩かせたが、山崎早紀は空振り三振に仕留めてみせた。窮地を脱し、淡々とマウンドを駆け下りていく上野。山本は「ミスをミスにしないのが上野さん。本当に感謝でした」と頭を下げた。

 

 その後はアボットと上野の投げ合いで、スコアボードに0の数字を刻んでいく。息詰まる投手戦。中でも上野は、3回2死から渥美、山崎、鈴木鮎、知久幸未、渡邉華月と5者連続三振を奪う圧巻のピッチングを見せた。エースは派手なガッツポーズもなく、冷静な面持ちでマウンドに立ち続け、チームの援護を待った。

 

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(写真:「選手が頑張ってくれた」と称えた宇津木監督)

 6回表だった。2アウトから森がライト前ヒットでつなぐ。今シーズン打撃2冠(本塁打、打点)のウィギンズは歩かされた。迎えるバッターは大工谷。前の2打席はいずれも三振である。大工谷は「タイミングが全然合ってなかった。無我夢中で打った」と高めのライズボールを振り抜いた。打球はレフトの頭上を越え、ワンバウンドしてスタンドに入った。エンタイトルツーベースで、待望の先制点はビックカメラが手にした。

 

 打球がスタンドインしなければ2点目は確実に入っていた。続く我妻がレフト前へと落ちそうな当たりを打ったが、トヨタのキャプテン小野真希のランニングキャッチに防がれた。リードはわずかに1点。だが、その1点で上野には十分だった。6回裏は2死からヒットと盗塁で得点圏にランナーを許したが、代打・鈴木美加をレフトフライで打ち取り、切り抜けた。

 

 7回の先頭は鈴木鮎をピッチャーゴロ、小野をセカンドライナーで切って取った。勝利まであと1アウト。最後は渡邉をファーストゴロに仕留め、試合を締めた。シーズンを通して若いチームを牽引してきたエースは最後まで頼もしかった。

 

(文・写真/杉浦泰介)