王者・パナソニック、3連覇へ好発進 ~トップリーグ~
ジャパンラグビー・トップリーグ2015-2016シーズンが13日、東京・秩父宮ラグビー場で開幕した。2連覇中のパナソニックワイルドナイツと3年ぶりの王座奪還を目指すサントリーサンゴリアスが対戦。前半3分にSOベリック・バーンズのペナルティーゴール(PG)でパナソニックが先制する。その後はWTB山田章仁に2本のトライが生まれるなど、26-0で試合を折り返す。パナソニックはサントリーにトライを奪われるも、後半も2トライ。38-5と最後まで危なげなく勝利した。
猛々しく、そして賢い野武士軍団が“巨人”を倒した。パナソニックは持ち味の球際に激しいディフェンスで相手のミスを誘い、的確な判断でサントリーに付け入るスキを与えなかった。
先日のイングランドW杯に出場した代表選手を多く抱えるパナソニックとサントリー。この日のスタメンもパナソニックはHO堀江翔太、SH田中史朗、山田らジャパン5人に加えCTBには南アフリカのJP・ピーターセンが入った。一方のサントリーはSH日和佐篤、SHフーリー・デュプレアはメンバー入りしなかったものの、FBで起用された松島幸太朗のほか、PR畠山健介、LO真壁真弥などジャパンが5人。SOにはサモアのトゥシ・ピシと合計12人のW杯戦士が顔を揃えた。
W杯の熱狂冷めやらぬ中、試合前から小雨がぱらつき、肌寒いコンディションではあったが、多くの観客が足を運んだ。開場前には1900人を超える行列ができ、前売りチケットも完売した。メディアも多数が押しかけ、その熱量を感じさせるものだった。
開始早々からチャンスをつくったのはパナソニックだ。右サイドをピーターセンがゲイン(前進)し、堀江へパス。堀江が大外のWTB北川智規につなぐ。北川はステップで対峙する松島をかわそうとするも芝に足をとられる。そのスキを松島は見逃さなかった。すぐに北川を捕まえ、ピッチの外に押し出した。いきなりのトライを予感させる攻防に会場も大いに沸く。
そこから初得点が生まれるのに時間はかからなかった。2分過ぎ、パナソニックがモールで押し込むと、22メーターライン付近で真壁が反則を犯す。ここでパナソニックはショット(キックでゴールを狙う)を選択。キッカーは昨シーズン得点王のバーンズだ。中央やや右の位置でのPGを難なく決めて、パナソニックが先制した。
正確なキックと的確な判断でゲームメイクするバーンズを、パナソニックのロビー・ディーンズHCは「チームの心臓」と評す。司令塔のバーンズを起点にパナソニックの攻撃はスタートする。6分には、敵陣深くで田中からボールを受けると、パスフェイクを入れて、一瞬の間をつくる。直後、グラバーキック(グラウンダーのキックパス)でディフェンスの裏を突いた。インゴール左隅に転がった楕円球を滑り込むようにキャッチしたのが山田。野武士軍団のトライゲッターが5点を追加する。
難しい角度からのコンバージョンキックを着実に決めたバーンズは、その後も正確無比なキックを披露した。2年連続MVPの元オーストラリア代表は、11分、17分、33分とPGを着々と成功させた。昨シーズンのベストキッカー賞も獲得しているバーンズの右足は今シーズンも健在であると証明した。
反撃に転じたいサントリーだったがミスや反則を繰り返し、なかなかリズムをつくれない。37分には故意の反則で畠山がイエローカードを提示される。ジャパンのフロントローをシンビン(10分間の一時退場)で欠くこととなったサントリーに、パナソニックは攻め手を緩めなかった。終了間際にバーンズがタックルを受けながらバックフリップパス。これに反応した山田は手を伸ばして、インゴールへ飛び込んだ。
再び角度のないところからのコンバージョンとなったが、バーンズはここでも外さない。前半を26-0で終えたパナソニック。一旦、ピッチから引き上げるフィフティーンの明るい表情から、ほぼ完璧に近い内容だったことは窺いしれた。
後半に入り、畠山がピッチに復帰してもパナソニックのペースは変わらない。11分には山田が左サイドをゲインし、敵陣に侵入。そこでできたラックから田中がバーンズにつなぐ。ほぼ中央でボールを受けたバーンズはキックパスで右へ展開した。高く上がったパスに大外から走り込んだピーターセンがキャッチ。再三のラインブレイクでサントリーディフェンスを切り裂いてきたスキンヘッドのバックスは、悠々とインゴールへ運ぶ。31-0とサントリーを大きく突き放した。
パナソニックはサントリーの反撃に遭い、20分にピシのトライで5点を返された。それでも27分にFL劉永男のトライなどで38-5で逃げ切った。合計4トライのボーナスポイントも加えて、開幕戦で勝ち点5を獲得した。
マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)には2トライを挙げるなど好守に奮闘した山田が選ばれた。だが実質MOMはバーンズだろう。敵将のアンディ・フレンドの「彼が試合をコントロールしていた」という言葉に尽きる。ディーンズHCも「彼ら(田中とのハーフバック団)の役割は状況判断。その選択はすべて正しかった」と褒め称えた。
3連覇を狙うパナソニックの良さばかり目立った開幕戦だった。「選手たちが正確なプレーをし、ひとつになってエキサイティングに楽しんでやってくれた」とディーンズHCも会心の勝利を喜んだ。
代表選手たちも合流して間もないが「パナソニックのラグビーに集中してくれた」(ディーンズHC)とギャップは感じさせない。キャプテンの堀江は「仲間たちはひとつにまとまっていた。(自分たちが)どこまでついていけるかコミュニケーションを取りながら試合に臨んだ」とうまくアジャストしてみせた。チームとして完成度の高い野武士軍団が、今シーズンもトップリーグをリードする。
(文・写真/杉浦泰介)