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(写真:現役時代は頭脳派捕手としてヤクルトの5度のリーグ優勝、4度の日本一に貢献した古田氏)

 ようやくプロ野球のシーズンが終了したかと思ったら、世界野球WBSCプレミア12がスタートした。ファンとしては有難いが、選手はオフも休めず大変だろう。国内の戦いだけに終わらず、世界と戦っていくのは、現在のスポーツでは当然の流れである。野球界も遅ればせながら、そんな潮流に合わせてきたという事で、新たなファンを確保してほしい。

 

 そんなプレミア12の試合で解説を務める古田敦也氏のコメントに賛否両論の意見が飛び交っているようだ。優秀な選手であった古田氏は、自分が納得できないプレーをした選手に対して「最悪ですね」とかなり厳しい言葉を発した。それについて「冷たすぎる」「冷静さに欠く」といった声もあるという。確かにやや大人げないのかもしれないが、ダメなプレーには「ダメ」と言い切るのは批判されることなのか。この話を聞いた時、同じような例が身近であったことを思い出した。

 

 僕がJ Sportsでサイクルロードレース中継を担当してから16年になるが、初期の頃に解説者としてお世話になった方は毒舌だった。本人の実績は申し分なく、それまでいたどの選手よりも世界のレースで実績を残されてきた方だ。自分が走れたことはもちろん、経験も豊富なだけに、自身が納得できない走りや、動きをする選手やチームに対しては手厳しかった。「これはダメですね」「これではプロじゃない」と言い放つこともしばしば。横で聞いている僕は、ひやひやしたものだ。

 

 だが聞いていて、彼のロードレースへの愛は人一倍強く、褒める時は褒めるので個人的には好感を持っていた。ただ、視聴者からの意見は二分した。評価する方もいた一方で苦情も沢山きていたようだ。さすがに当時のプロデューサーも本人に話したのだが、「ダメなものはダメと言うのが解説」というスタイルは変わらず、番組から少しずつ疎遠になっていってしまった。

 

 “スパイスコメント”に期待

 

 確かに彼は言い過ぎの面もあったが、選手を持ち上げたり、褒めたりするだけの解説と違って、見る目を養ってくれたと思っている。そんな彼だからこそ、言えることもあったはずだし、個人的には解説陣に残って欲しかった。そもそも解説というのは、人によって違うのが当然で、いろいろな角度のコメントが聞ける方が視聴者にとって有意義だと思う。同じ戦略でも見方を変えると真逆の理解だってできるはず。だから解説者は多様なタイプがいるべきだと思うし、それこそが視聴者側のサイクルロードレースへの興味を深めてくれるのではないか。そんなことを考えながら実況をしていたのを思い出した。

 

 野球の解説者もいろいろなキャラクターがあってもいい。出身ポジションやチームによっても考え方、見方は異なるし、その人の経験や性格からも違いは生まれる。そんなバリエーションに富んだ評論こそが楽いし、見識も広げられるはずだ。古田氏が正しいとか正しくないではなく、そんな視点もあるのだと教えてくれているのだと思う。ややもすると、ゆるい言葉だけが流れるスポーツ中継が多い中、辛口であっても的確な分析を入れてくれる解説者が必要なのではないか。

 

 もちろん、不特定多数の方が視聴するものなので、言葉は選ぶ必要はある。また批判的なコメントばかりでは、聞いているほうも嫌になる。公に喋る立場を理解した上で、多少批判的なコメントが入るのは、むしろスパイスとなるのではないかと思うのだが……。古田氏には、これからもスパイスの効いたコメントを期待したい。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。13年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
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