第171回「山のトレラン、街の自転車の生き残り術」
久しぶりにトレイルランにハマッている。
15年ほど前はアドベンチャーレースをやっていたこともあり、山中でよく走っていた。だがその後は、トライアスロンをもう一度ちゃんとやろうと思ったので、少々足が遠のいていた。最近ちょっとしたきっかけで走りに行くと、それが楽しくて、楽しくて。やはりタイムや距離にとらわれることなく、自然の中で体を動かすことの楽しさというのは格別なのだと再認識した。
ところが、そのトレイルランに対するか風向きがよくない。まぁ、10年ほど前から言われてきたことだが、事態は好転していないようだ。問題は、今までハイカーの道として親しまれてきたトレイルに、同じルートをランナーが走り抜けることでハイカーたちからクレームが続出したこと。さらに、トレイルランのイベントが増え、大勢のランナーが一度に走ることによる、自然への影響が懸念されている。
まず前者のハイカーとの摩擦問題。基本的にトレイルはハイカーだけのものではなく、皆のものだ。確かにハイカーたちが使ってきたトレイルに、新参者が入ってきて大きな顔をされると面白くないのは当然だが、「自分たちのものだから入ってくるな」という意識はおかしい。しかし、トレイルランナーのマナーも悪いのも大きな原因だ。歩いている人に声もかけず、いきなり追い抜いたり、すれ違っていては、ハイカーたちが怖がったり、嫌がるのも無理はない。ゴミ投棄やトレイル以外のところに走り回る者もいるという。これでは「出て行け」と言われて当然である。
今後、ランナーのマナー向上が必須であることは間違いない。こうした意識の高まりから、地域のトレイルを愛するランナーたちがマナー向上を訴えたり、清掃活動などに乗り出している例もある。トレイル問題ではよく登場する鎌倉でも「鎌倉トレイル協議会」という任意団体が作られ、「鎌倉トレイル・ガイダンス&ルール」を制定、啓蒙活動を行っている。トレイルを走ることは許可制度でもないが、自分たちがきちっとした行動をとらないと、トレイルを使う仲間に入れてもらえなくなるので、非常に大切な活動だろう。
解決すべきマナー問題
そして、この問題と状況は、まさに街中で自転車が置かれている問題と同様のものである。今まで数が少なく問題視されてこなかった交通社会の中での自転車が、数の増加により新参者のようにはじかれつつある。その一因が自転車を乗る者のマナーにあるのも現実。それを解決するには社会全体の認識を変えることと、サイクリストの意識の啓蒙が必須。自転車もトレイルランも、未来は自分たちにかかっている。
後者の、イベント問題は主催者に問題がある。誰の道でもないからと言って、大勢のランナーがむやみやたらに走っていたら既存使用者の方々は迷惑する。また1000人もの人が一度にトレイルを走り抜ければ、ましてやそれが雨の後だったりしたら、自然への影響がないはずはない。やはり走る人数を絞り、事前告知を周知し、現状復帰のリペアを行うというような活動をするべきだろう。
トレイル先進国のニュージーランドなどでは、大会規模を抑えるのはもちろん、普段の入山人数制限まで加え、自然保護に努めている。トレイルの数に比べて参加人数が多い日本では難しい面もあるが、大会の人数制限、開催時間などをしっかり定めていかないと、未来はないと思う。個人的には、そもそもトレイルランはタイムを争うより、自然との調和を楽しむものなのでレースには不向きではと思うのだが……。
先週、マラソンで訪れたホノルルでも、トレイルに行ってきた。あいにく前日までの雨により、ドロドロでスリッピーなコンディションにもかかわらず、意外に多くのハイカーとすれ違った。それも若年層が多く、中高年が多い日本のトレイルとはずいぶん雰囲気が違う。格好も登山っぽい人から、ビーチの延長のようなラフな人までいた。行ったその山の距離は長くはないが、意外に険しいセクションがある。過去には滑落事故があったような山なのだが、このゆるい感じで各々が楽しんでいる姿は羨ましかった。
日本でも、早くトレイルランナーのマナーが向上し、トレイルの中で認知を得たいところ。そして自転車もしかりだ。
トレイルランナーの皆さん、サイクリストの皆さん、未来は僕たちにかかっているよ!
参考資料
白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。13年1月に石田淳氏との共著で『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)を出版。
>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ