今ではカープのエースというより日本球界のエースである。広島・前田健太がメディアの前でメジャーリーグへの思いを素直に語った。

「メジャーリーグへの思いは年々、強くなっている。いろんなところでメジャーの話を聞かれたり、挑戦するのかと問われたり、年齢も1つずつとっていくので、できれば若い時にという思いや、カープで優勝をという、いろいろな思いがある中で、行きたいという思いは前よりも強くなってきた」

 

 

 今季、マエケンは29試合に登板し、15勝8敗、防御率2.09という好成績で2010年に続いて2度目の沢村賞に輝いた。

 

 今秋の第1回WBSCプレミア12では、侍ジャパンの一員に選ばれ、予選リーグのメキシコ戦、準々決勝のプエルトリコ戦に先発した。

 内容は、5回5安打2失点、7回4安打無失点。ネット裏に陣取ったメジャーリーグのスカウトの評判も上々だった。

 

 海外FA権を取得してメジャーリーグ入りを果たすには、あと2年かかる。そのため海を渡るにはポスティング・システム(PS)を利用しなければならない。果たして球団は、どんな判断を下すのか。

 

 マエケンの去就は米国でも話題になっていた。この秋、メジャーリーグを取材した際、ヤクルトや近鉄などで活躍し、フィリーズの監督としてチームをワールドチャンピオンに導いたチャーリー・マニエルを訪ねた。

 

 ヤクルト、近鉄の初優勝に貢献したマニエルも71歳。もうリタイアしているのかと思っていたら、今も意気軒昂で、フィリーズのアドバイザーを務めていた。日本人選手の評価について聞かれることが多いそうだ。

 

 こちらが聞きもしないのに、マニエルは言った。

「ケンタ・マエダの評価は5つ星の3つ。スライダーとチェンジアップが特にいい。ボクは彼のピッチングをヒロシマで見たこともあるんだよ」

 

 5つ星の3つ、というのは高いのか、低いのかと聞くと「メジャーリーグのローテーションピッチャー。かなり高い評価だよ」と答えた。

 

 マエケンの長所は試合をつくれることにある。メジャーリーグでは先発投手の安定感を表す指標をクオリティ・スタート(QS)と呼ぶが、今季のマエケンは26でリーグトップ。この安定感は“買い”だろう。

 

 大きな故障がないのも、マエケンの強みだ。2009年以降はコンスタントに200イニング前後投げている。今季も206.1イニングを投げ、カープのローテーションを支えた。

 

 米国のメディアはPSによるマエケンのメジャーリーグ移籍が決定的となった場合、カブス、ダイヤモンドバックス、ドジャースなどが手を挙げるのではないかと伝えている。

 

 一方でカープファンの思いは複雑だろう。海外FA権を取得するまで「もう2年待って欲しい」という声を、よく耳にする。 

 ただ、その場合、球団には移籍金が1円も入らない。引き止めるのも送り出すもオーナーの腹ひとつである。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2015年12月13日号に掲載されたものです>

 


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