第306回 2015年、Fighter of the Year(年間MVP)の行方

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(写真:クリチコがフューリーに敗れたことは紛れもなく今年度は代表する”事件”だった Photo By Kotaro Ohashi)

 2015年のボクシング界は、さまざまなドラマと波乱に満ちていた。3月にはアル・ヘイモンが主宰する地上波の新テレビ興行シリーズがスタート。5月には全世界待望のフロイド・メイウェザーvs.マニー・パッキャオ戦が行われ、9月にはメイウェザーが現役引退を表明した、そして11月にはヘビー級の絶対王者として君臨してきたウラディミール・クリチコがついに王座陥落……。

 

 メイウェザー、パッキャオの時代から次世代への過渡期にいることを感じさせた1年をほぼ終えて、今年度の年間MVP候補にもフレッシュな名前が数多く挙がっている。BWAA(米ボクシング記者協会)が“Fighter of the Year”にノミネートしたのはゲンナディ・ゴロフキン、サウル・“カネロ”アルバレス、タイソン・フューリー、ローマン・ゴンサレス、そしてメイウェザーの5人。まだ年末に日本で数多くのタイトル戦が開催されるが、2015年の年間MVPがこのクインテットの中から選出されることは間違いないはずだ。

 

 2015年に最も輝いたボクサーは誰だったか。多くの媒体、団体が年末に制定する年間賞発表に先駆け、今回は今年の年間MVPの行方を占ってみたい。

 

フューリー(WBA、WBO世界ヘビー級王者)

2015年2戦2勝

クリスチャン・ハマー 8R終了TKO

ウラディミール・クリチコ 判定3-0

 

 9年に渡ってヘビー級を支配してきたクリチコを11月28日に破り、全世界を震撼させた。この一戦は“年間最大番狂わせ”に選ばれることは確実。多くのファンがクリチコ政権の終焉を望んでいたのは事実であり、殊勲の星を挙げたフューリーはこそがMVPに価すると考える関係者も少なくない。

 

 マイナス材料は、実質的に2015年の実績がこの一戦だけであること。そして、サイズと足を使って逃げ切ったクリチコ戦が史上に残るほど退屈なファイトであったこと。この2点をどう判断するか。

 

 近年は世界タイトルの形骸化が進んで久しいが、このヘビー級戦は、“内容よりもとにかく結果”が重要視されたという意味でオールドスクールなタイトルマッチだった。意見が分かれるところだが、世界的なニュースを生み出したフューリーが年間MVPに選ばれても筆者には特に異論はない。

 

アルバレス(WBC世界ミドル級王者)

2015年2戦2勝(1KO)

ジェームス・カークランド 3RKO

ミゲール・コット 判定3-0

 

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(写真:興行力の高さではカネロはメイウェザーの後継ぎと呼ばれるにふさわしい Photo By Kotaro Ohashi)

 カークランド戦では“年間最高KO”も有力なKO劇を見事演出し、11月にはコットとの中南米ドリームファイトを制した。コット戦でのPPV売り上げは90万件以上と予想を上回る数字をマーク。メイウェザー引退後、カネロは業界最大の興行価値を誇る選手として認識されていくのだろう。興行成績まで含めた2戦の中身を考えれば、年間MVPの筆頭候補と考えられるべきか。

 

 ただ、カークランド戦の結末は確かに見事だったが、この試合はもともとカネロの圧勝が予想されたショウケース・ファイトだった。コット戦は明白な勝利だったが、契約ウェイトの利点を生かし、サイズの違いが決め手になった上での勝利にも思えた。筆者もコット戦の内容は不満であり、依然として「カネロは過大評価ではないか」との疑いを消し去れていない。

 

 すべてを考慮した上で、興行の世界では重要な要素である人気面も評価され、少なからずの媒体から2015年MVPに選ばれそう。この勢いを糧に、来秋にもゴロフキンとのミドル級最強決戦に臨んで真価を証明してほしいところだ。

 

ゴロフキン(WBA、WBC、IBF世界ミドル級王者(WBAはスーパー、WBCは暫定王者))

2015年3戦3勝(3KO)

マーティン・マレー 11RTKO

ウィリー・モンロー・ジュニア 6RTKO

デビッド・レミュー 8RTKO

 

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(写真:新時代の到来を感じさせた2015年。ゴロフキンの上昇ぶりも印象的だった Photo By Kotaro Ohashi)

 今年も現代のトップボクサーとしてはハイペースで3戦を行い、そのすべてに圧倒的な形でのストップ勝ちを収めた。実力者のマレーを蹴散らし、IBFのタイトルホルダーだったレミューにも完勝。現役最強ファイターのひとりと認識されると同時に、モンロー戦ではロサンジェルスのザ・フォーラムを、レミュー戦ではニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデンを超満員にし、アメリカ東西両海岸でその人気が高まっていることを証明した。

 

 依然としてアメリカでのキャリアの象徴となる勝ち星がないが、初めてPPV興行の主役を務めたレミュー戦はステップアップだった。レミューのスキルには限界があることは事前から指摘されていたとはいえ、IBFのタイトルホルダーを寄せ付けなかった強さは圧巻。今後のマッチメイクまで含め、さまざまな形で話題を呼んだという意味でもインパクトは大きかった。

 

 同階級の多くの強豪から恐れられているのは紛れもない事実であり、ここまでビッグファイトのレジュメが薄いのは本人の責任ではない。HBOの後押しを受け、アルバレスとの決戦実現もついに視界に入ってきた。カザフスタンの破壊王のキャリアが、2015年中にまた一歩前に進んだことは間違いない。

 

ローマン・ゴンサレス(WBC世界フライ級王者)

2015年3戦3勝(3KO)

バレンティン・レオン 3RTKO

エドガー・ソーサ 2RTKO

ブライアン・ビロリア 9RTKO

 

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(写真:ゴンザレスはアメリカリングでは今年度最大のライジングスターだったPhoto By Kotaro Ohashi)

 軽量級の怪物はソーサ戦でついにHBOに初登場し、ビロリア戦ではHBO PPVのセミファイナルも堂々の内容で務め上げた。今年度もすべて圧倒的な内容で3連続KOを飾り、アメリカでも新たなセンセーションとなりつつある。メイウェザーの引退宣言も相まって、現時点で多くの媒体からパウンド・フォー・パウンド最強の評価を勝ち得るに至った。

 

 本人の責任でないとはいえ、対戦相手の質はゴロフキンにもやや劣り、主要媒体から今年度のMVPに選ばることはないだろう。それでも2015年がゴンサレスにとって重要な1年だったことは間違いない。

 

 新たにHBOスポーツ部のトップに就任したピーター・ネルソンが軽量級に興味を持っている。その恩恵も受けて、今後はHBOの常連ファイターとして本場のリングを騒がせていくことになるはずだ。

 

 

メイウェザー(元5階級制覇王者)

2015年2戦2勝

マニー・パッキャオ 判定3-0

アンドレ・ベルト 判定3-0

 

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(写真:長くボクシング界を引っ張ってきたメイウェザーの時代は本当に終わるのか Photo By Daisuke Sugiura)

 パッキャオとの“世紀の一戦”をついに実現させ、明白な形で勝利した。この試合の途方もない興行成績はしばらく破られないだろう。さらに9月にはベルトとの“引退試合”を制し、無敗のままキャリアに幕を引いている。

 

 社会現象にまでなったビッグファイトに勝ったのだから、本来ならばそれだけで最有力候補と目されてよい。また、19年も無敗を保った世代最強王者の現役引退に際し、“功労賞”的な形で年間MVPの票を集めてもしかるべきのはずである。

 

 ただ……問題は、莫大な注目度の中で行われたパッキャオ戦の内容が、多くのファンから酷評されたこと。そして、ここでの引退をほとんどの関係者が信じていないこと。そんな要素を加味すれば、メイウェザーの2015年を評価するのは実に難しい。“Fighter of the Year””の投票時にも、選者は難しい判断を迫られることになりそうだ。

 

 筆者選出の2015年MVP 

 ゴロフキン

 

 5人のうちの誰が選ばれても不思議はない大混戦であり、“間違い”という答えは存在しない。そんな中から、筆者が選ぶのはゴロフキン。メイウェザーの時代がようやく終焉に近づき、ファンはよりエキサイティングな新しい覇者を求めている。そんな新時代の旗頭として注目を集め、実際に期待に応えるだけの内容で勝ち続けている点を評価したい。モナコ、アメリカ西海岸、東海岸と場所に拘らずにメインイベントを張り、変わらぬ強さを見せつけている点も清々しい。

 

 同じ系統のゴンサレスの話題性も急上昇中。ファン・フランシスコ・エストラーダとの再戦などの注目ファイトが実現すれば、1年後にはフライ級選手が米国内の媒体からMVPに選出される快挙達成も十分に考えられる。

 

 杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY

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