福岡ソフトバンクが日本一連覇を達成して幕を閉じた今シーズン。12球団の戦いぶりを見ていて感じたことは、ソフトバンクの圧倒的な強さと東京ヤクルトの躍進です。

 

改革を遂げた鷹と燕

 工藤公康新監督のもと球団創設初の連覇を達成したソフトバンクは、一年間通じて安定した強さを誇りました。新人監督は、新しいことを取り入れたがる傾向があります。しかし、工藤監督は前年度日本一のチームを無理に変えようとはしませんでした。当たりのことを当たり前にやり遂げた結果が日本一をもたらしました。

 

 一方、14年ぶりにセ・リーグ優勝を果たしたのは、昨シーズン最下位だったヤクルトです。開幕前にヤクルトの優勝を予想した者はほとんどいなかったのではないでしょうか。

 

 最下位のチームを変えたのは、真中満新監督の存在です。春季キャンプの頃から、今年はチームの雰囲気が違うなという印象を受けました。監督が常に明るかったので、選手の雰囲気も自然と良くなり、意識も変わったのでしょう。しかし、リーグ優勝するまで変わるとは予想外でした。

 

 今年のプロ野球を一言で表すとしたら「変化」が相応しいでしょうね。真中新監督によってチームの雰囲気が変わったヤクルト。そして、基本的な方針は変えなかったものの、監督を含め、新たな首脳陣でシーズンを戦ったソフトバンク。セ・リーグの場合は、前評判の高かったチームが勝てず、最下位だったヤクルトが優勝しました。パ・リーグも、改革に成功できなかったチームが負けています。変化を遂げたチームが結果を残した一方で、変われなかったチームが苦しんだ年でした。

 

 来季は巨人、横浜DeNA、阪神、東北楽天の4球団が新監督のもと始動します。成績が伸び悩んでいるのにもかかわらず、改革に消極的なチームは、今後、より一層苦しむでしょうね。各チーム新戦力が加わり、少なからずチームの雰囲気は変わると思います。2016年はどんな戦いが繰り広げられるのか、今から楽しみです。

 

スワローズ打線が“MVP”

 個人に目を向ければ、セ・リーグのMVPに選ばれたのは、トリプルスリー(打率3割以上、本塁打30本以上、盗塁30個以上)を達成した山田哲人(ヤクルト)です。山田は打率3割2分9厘、本塁打38本、盗塁34個で、本塁打と盗塁はリーグトップの成績でした。

 

 山田の活躍は素晴らしかったですが、個人的に今シーズンの“MVP”を与えるとしたらスワローズ打線の2、3、4番「川端慎吾-山田哲人-畠山和洋」です。この3人は、粘り強かった。打ってつないで、1点を奪い取るスタイルを徹底していました。

 

 川端が首位打者、畠山が打点王を獲得し、山田と打撃三部門のタイトルを3人で分け合いました。これは、史上初の快挙です。山田は打率と打点はリーグ2位。チーム内でタイトルを競い合ったことが、トリプルスリー達成にも繋がったと思います。

 

 一方のパ・リーグもトリプルスリーを達成した柳田悠岐(ソフトバンク)がMVPに輝きました。打率3割6分3厘とハイアベレージを残し、首位打者を獲得。本塁打34本、盗塁32個を記録しました。ちなみに両リーグでトリプルスリーが生まれたのは、1950年以来、プロ野球史上2度目です。

 

 柳田はMVP授賞後のインタビューで「来季は40&40(40本塁打以上、40盗塁以上)を目指します」とコメントしています。彼のポテンシャルからすると、1年間通して怪我をしなければ、40&40達成も十分あり得るでしょう。

 

 山田と柳田には、来季は敵のマークが一層厳しくなると予想されます。ですが、相手バッテリーの攻めに屈せず、トリプルスリーどころか“トリプルクラウン”を目指して欲しいですね。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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