160129久保ランニング(加工済み) 空中戦に強く、相手の攻撃を何度もはね返す姿は見ていて頼もしさを感じさせた。彼の名は久保飛翔(つばさ)。1.FSVマインツ05所属のFW武藤嘉紀を輩出した名門・慶應義塾大学ソッカー部のキャプテンを務め、今シーズンからはJ2のファジアーノ岡山でプレーする。慶應は2015年シーズンの関東大学リーグで3位の好成績を収めた。久保はベストイレブンに選出される活躍を見せて、ピッチ内外でチームの中心となっていた。大学サッカー界を代表するセンターバックにまで成長した久保が歩んできた道のりとは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

<2016年2月の原稿を再掲載しております>

 

 去る2015年12月10日、久保ら慶應の4年生にとっては大学生活最後の大会となる第64回全日本大学サッカー選手権大会に出場した。東京・江戸川区陸上競技場での2回戦、慶應は大阪体育大学に0-1と惜敗。つなぐサッカーの慶應、パワーを前面に押し出す大阪体育大の戦いは、手に汗を握る好勝負だった。

 

「守備はいつも通りやっていたので、相手の攻撃は怖くはなかったです。失点した一発だけだったと思うんです。ただ、ボールを持って攻撃をするときに、チームとしてどうするかという迷いはありました」と久保は試合を振り返った。

 

 パスをつなぎ相手を崩すことを基本コンセプトとしている慶應だが、2日前にラグビーの試合が行なわれたグラウンドはおうとつが激しく、ボールコントロールを難しくさせた。

 

 チームが本来の持ち味を奪われた状況下でも、久保は攻撃では縦パスを入れ、時にはミドルパスで相手を押し込もうとしていた。守備では大阪体育大のロングボールをはね返し続けている彼の姿が印象的だった。

「ベースとして競り合いで負けてはいけない」と空中戦に自信を持つ久保。「今年(2015年度)は競り合いで負けてないですね。“この選手には勝てないな”というのはなかったです」と胸を張る。守備の要としてのプライドを覗かせた。

 

岩政大樹の助言で磨かれた武器

 

160129久保競り合い(加工済み) 久保の武器はヘディングの強さだ。身長は186センチと体格に恵まれてはいるが、背が高いだけで競り合いに勝っているわけではない。久保は相手への体の当て方やジャンプのタイミングが絶妙にうまい。久保は競り合いのコツを教えてくれた人物として、岡山に所属する元日本代表DF岩政大樹の名前を挙げる。岩政は競り合いの強さを買われて、当時の日本代表監督の岡田武史に2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会のメンバーにも選出された経歴の持ち主だ。

 

 その岩政とは岡山に入団する前にマンツーマン指導を受ける機会を得た。

「2015年の春、ファジアーノ岡山の練習に参加した時、岩政さんに“ヘディングを教えてください”と、お願いしたんです。岩政さんは競り合いに勝つところから逆算してヘディングを考えていました。例えば、ジャンプするタイミングだったり、ジャンプした後にヘディングをするタイミングです」

 

 ジャンプ後のヘディングのタイミングについては、3つのパターンに分かれるという。久保はこう続ける。

「ジャンプをしてすぐなのか、最高到達点で一瞬止まっている時なのか、最高到達点から体が落ちていく時なのかで変わってきます。岩政さんに教えてもらって、ワンプレー、ワンプレーきちんと考えないといけないんだなと思いました」

 

 岩政から教えを受けて、わずか1年たらずとは思えないほど、久保は競り合いでの駆け引きで相手FWを圧倒していた。その飲み込みの早さに驚かされる。普段から意識を高く持って練習や試合に取り組んでいる証拠だろう。自分自身でも岩政に教えてもらってからの成長を感じ取れているという。

 

「相手のヘディングの競り方によって自分も競り方を変えることを意識するようになりました。競り合いに関してはさらに自信を持てるようになった。それまでは、ボールが飛んできて、落下点を見極めたら勢いよく突っ込むという単純な考えでしたから」と久保は笑う。闇雲にヘディングをするのではなく、“頭”を使って競り合いに勝てるようになったのである。

 

 久保は今後の課題についても触れた。それは「フィードの向上」と話す。現代サッカーは、後ろからパスをつなぎ、ボール支配率を高めながら相手の守備網を崩すスタイルが主流となっている。そのためセンターバックにも、パスの精度が求められるのだ。「大学最後の試合も、ボールを持った時が自分の課題だなと思う試合でした。ビルドアップの精度をあげないといけないですね」

 

 しかし、久保は高校生までは、突発的にDFをやったことはあったものの、主に自分でボールを収めて攻撃の起点となるポストプレーヤータイプのFWだった。欠点になるほど足元の技術は低くはない。それでも彼は現状に満足することなく、「1つ1つのパスに意味を持たせる。センターバックが試合をコントロールできるように」と練習に打ち込む。

 

 当初はFWへのこだわりが強く、センターバックへのコンバートを受け入れられなかったこともあった。「ガキだったんで」と久保は笑いながら、当時を振り返る。久保がFWを務めるきっかけとは、母のあと押しだった。

 

(第2回につづく)

 

<久保飛翔(くぼ・つばさ)プロフィール>

 1993年11月10日、愛媛県松山市出身。小学2年からサッカーを始める。帝人サッカースクール-愛媛FCジュニアユース-済美高。済美高在学時に本格的にDFにコンバート。全国高校選手権に主将として出場し、同校のベスト16入りに貢献した。慶應義塾大進学後は2年時からトップチームの試合に出場し始める。4年時には大学でも主将に就任し、チームをまとめた。今季からはJ2岡山へ入団。身長186センチ、体重84キロ。

 

 

 

(文・写真/大木雄貴)

 


◎バックナンバーはこちらから