ある意味、ホームラン868本以上にアンタッチャブルと見られる記録を王貞治は保持している。それは通算2390四球だ。2位の落合博満が1475だから、いかにこの記録がケタはずれかが理解できよう。

 

 1962年から79年まで18年連続でセ・リーグの“四球王”になっている。それだけ恐れられていたことに加え、選球眼がよかった証拠である。

 

 丸佳浩が今季から一本足打法に取り組んでいる。元祖の王ほど極端には上げないが、それでも写真でみると、昨年より20センチほど右足が上がっている様子がうかがえる。

 

 昨年限りでチームを去った新井宏昌が今季も打撃コーチを務めていたら、おそらく丸が新打法に取り組むことはなかっただろう。なぜなら、「足を上げても飛距離は変わらない」が新井の持論だからである。

 

 一昨年と昨年、丸のホームランは19本で20本台の大台には届かなかった。一本足打法に取り組む背景には、「今年こそ」との思いがあるのかもしれない。

 

 世界の王と比べるのは失礼だが、丸も選球眼には定評がある。14年は100、15年は94と、リーグ最多の四球を選んでいる。

 

 一本足打法の最大の敵は悪球打ちである。これによってバランスを崩せば、フォーム自体がバラバラになる。王が成功を収めた最大の理由は「ボール球に手を出さなかった」ことにある。

 

 王のコンセプトを丸も大事にした方がいい。四球数が増えれば、自ずと出塁率は高くなる。チームへの大きな貢献となる。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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