昨季の沢村賞投手・前田健太がポスティング・システムを利用してロサンゼルス・ドジャースに移籍したことで、今季の広島カープは苦戦が予想される。

 

 

   昨季のマエケンの成績は15勝8敗。1人で7つの貯金をつくった。この穴を埋めるのは容易ではない。

 

「いや、大丈夫。今季のカープにはメジャーリーグから復帰2年目の黒田がいる」

 そう語るOBもいる。期待したい気持ちはわかるが、昨季11勝をあげた黒田も、この2月で41歳になった。ローテーションの柱の役割を担わせるのは酷だろう。

 

 それでなくても、彼は右腓骨筋腱の炎症と右足首の炎症などで、昨季、2度ローテーションを離れているのだ。

 

 では、誰を中心にローテーションを回すべきか。実績的には来日2年目の外国人投手クリス・ジョンソンだろう。

 

 昨季のジョンソンの活躍は想定を上回るものだった。

 28試合に登板して14勝7敗、防御率1.85で最優秀防御率のタイトルを獲得した。

 この成績が認められ、年俸は約8600万円から約1億5400万円に大幅アップした。

 

 本人も「2016年もカープでプレーすることができて非常に光栄です。チームに貢献できるよう努力したい。選手やファンの皆様がとても親切にしてくれるので、婚約者も広島を第2の故郷のように感じている」とご満悦だった。

 

 スターターとしての安定感を示すクオリティ・スタート(QS)は24。これはセ・リーグでは前田健太の26についで2位だった。

 193センチの長身から投げ下ろすツーシーム系のボールで、面白いようにバッターを手玉にとった。

 

 ルーキーの頃から活躍し、怖いもの知らずの埼玉西武の森友哉は打ちにくいピッチャーとして大谷翔平(北海道日本ハム)とともに、ジョンソンの名前をあげた。

 本格派の代表が大谷なら、ジョンソンは技巧派の代表ということか。

 

 これほどの投手なのに、メジャーリーグでは1勝もあげていない。日本では希少価値の長身サウスポーだが、米国ではこの手のタイプは掃いて捨てるほどいる。来日は大正解だったと言えよう。

 

 カープOBの川口和久もポスト前田にジョンソンの名をあげる。

「外角に落ちるチェンジアップを初めて見た瞬間に"すげぇな"と鳥肌が立ちました。

 全ての球が魅力的。コントロールはいいし、投げっぷりもいい。顔も男前だし、言うことないでしょう。トリプルスリーぐらいですよ。日本球界では最高の左ピッチャーだと思います」

 

 昨季はコースぎりぎりの球をボールと判定され、苛立ちを露わにすることが何度かあった。

 在京球団のあるスコアラーは、「日本の審判はジョンソンが投じるボールの軌道を見慣れていない。多少、損をした面はあったかもしれない」と語っていた。

 

 いずれにしても ジョンソンの活躍なくして、カープの25年ぶりの優勝はない。これだけは確かだろう。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2016年2月28日号に掲載されたものです>


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