(7) レベルの高い環境に身を置いたとしても、そこで成功するかどうかはわからない。ライバルに負けじと伸びる者もいれば、一方で自信を失って腐る者もいる。星城高校に入学した武智洸史は前者だった。だが、彼もはじめからそうだったわけではない。武智がスタメンを勝ち取るほど努力できたのは、同高バレーボール部の竹内裕幸監督と石川祐希に出会えたからだ。

 

 星城高は愛知県出身選手でチームを作ることをポリシーにしている。14年に史上初の6冠を成し遂げたメンバーのプロフィールを見れば分かるように、武智を除いた全員が県内の中学校を卒業している。愛媛県出身の武智が入部すること自体、異例中の異例だった。

 

「正直、スタメンにするつもりは全くなかった」。そう明かすのは3年間、武智を指導した竹内監督だ。全国レベルの強豪校で、県内の実力者が揃うチームで1年目からコートに立つことは難しい。ましてや“県外人”の武智は、まず初めにメンバー構想から外された。

 

 毎日のメニューはボール拾いのみ。入学したばかりのころはろくにボールを触らせてもらえなかった。「学校を辞めて地元に帰りたい」。武智はわずか1カ月で心が折れてしまったという。

 

 竹内監督は、一度退部を申し出た武智を引き留めようとはしない。むしろ「どうぞお帰り下さい。さようなら」と冷たく突き放した。県外選手がスタメンを勝ち取るためには、人の何倍も努力をしなければならない。竹内監督には、その“覚悟”を武智からは感じられなかったのだ。

 

 しかし、この荒療治が功を奏す。負けず嫌いの武智に、ようやく火が付いた。これまでのエピソードから分かるように、彼は悔しさを糧に成長するタイプだ。「そこからの変わりようはすごかった」と竹内監督。これを機に、武智は自らが置かれた状況を理解して、技術だけでなく精神的にも大きな成長を遂げたのだった。

 

 

良きライバル“石川祐希”

 

(8) 彼を奮起させたのは竹内監督だけではない。武智は自分よりも先にコートで練習する石川の姿に対抗意識を燃やしていた。それは周囲に分かるほどだった。

 

 2人を指導してきた竹内監督は、こう証言する。
「武智をここまで成長させたのは、石川祐希といってもいいかもしれないですね。石川との比較が常に彼を高めてきたと思う。あの子は石川が近くにいなかったら多分ダメになっていましたよ」

 

 武智は高2の時に晴れてスタメンを勝ち取ると、ポジションはセッターの対角だった。今ではエース石川の対角は“武智”というイメージだが、高校時代に2人が対角となったのは6冠に王手をかけて臨んだ3年の春高バレーだけだった。

 

 竹内監督は2人を敢えて違うポジションにしていた。その理由を「武智は石川に物凄くライバル心を持ちながら練習していた。2人を同じポジションにしておくと、石川と比較して武智自身が壊れちゃうと思ったんです」と明かす。監督の武智に対する“親心”が、最終的に春高バレーで実を結んだ。2年連続3冠達成――。星城高の歴史的な快挙に繋がった。

 

 親元を離れて愛知で3年間暮らした武智は、竹内監督への感謝の思いを口にする。
「高校はひとり暮らしだったので、竹内先生が沢山面倒をみてくれました。バレーボールでは監督なんですけど、それ以外ではお父さん的な存在だった」

 これに対して、竹内監督は「元旦に実家に帰れない武智を僕の実家に連れて行き、ご飯を食べさせたり墓掃除をさせたり……。そういうことをしたのは、監督を務めてからこれまでの間で彼だけなんです。正直、息子のような存在でした」と話す。

 2人の師弟関係はコート外でも固く結ばれていた。

 

 高校生活はマイナスからのスタートだったが、素晴らしい指導者と仲間たちに恵まれたことで、武智のバレー人生はプラスに変わった。彼らとの出会いがなければ、ここまで努力をすることはなかったかもしれない。

 

 高校で輝かしい成績を残した武智は卒業後、「石川がいないと僕は多分ダメになる」と言い、石川と同じ中央大学に進む。武智にとって良きパートナーであり、良きライバルである石川との“対角線の関係”は今もなお続いている。

 

最終回につづく)

 

プロフィール写真<武智洸史(たけち・こうし)プロフィール>

1996年1月1日、愛媛県松山市出身。小学2年にバレーボールを始め、雄新中学時代は全国大会に出場。星城高校では、2年からスタメンを獲得。全国高等学校総合体育大会、国民体育大会、全日本高等学校選手権大会の主要3大会を史上初の2年連続で制覇した。中央大学では、1年からスタメンで活躍。14年全日本インカレでは18年ぶりの優勝に貢献し、レシーブ賞を獲得。昨年5月にU23日本代表にリベロとして選出され、第1回アジアU23男子選手権大会に出場した。身長186センチ、体重78キロ。最高到達点330センチ。ポジションはリベロ、ウィングスパイカー。

 

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(文・写真/安部晴奈)

 


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