(10 ) 2016年4月9日。武智洸史にとって大学3年目のシーズンが始動した。新たな戦力が加わった中央大学は春季関東大学リーグ初戦で今季から1部に昇格してきた日本大学と戦い、3-0でストレート勝ちを収めた。コート内で一際声を張り、チームを盛り上げていたのは、新しい背番号“12”を付けた武智だった。

 

 インタビューをした1カ月前、彼はこんなことを話していた。
「自分の悪いクセは石川(祐希)がいない時に、“自分がやらないといけない”という気持ちがどんどん強くなることです」

 

 昨年、中大が唯一優勝を逃した東日本バレーボール選手権(東日本インカレ)。エース石川とセッターの関田誠大が全日本代表に招集されたため、不在だった。ベストメンバーが揃っていなかったとはいえ、ベスト16という不甲斐ない成績で終わった。

 

 武智はこの大会を振り返る。
「自分はどちらかといえば、ディフェンシブなプレイヤーなんですが、チームに石川がいなくなるとその分、攻撃力が下がるんです。それで“自分がもっと攻撃に参加しなければ”という気持ちになって、ディフェンスが疎かになってしまいました。それも負けにつながったのかもしれない」

 

「誰が出ても勝てる」チームを目指す中大にとって、東日本インカレは悔いの残る結果だった。武智は「石川と関田さんの2人がいなくても優勝する姿を見せたかった。東日本インカレを落としたのは悔しくて、悔いが残っています」と表情を曇らせる。

 

 チームの中心を担う武智は、対角の石川がいなくなると“自分がやらなければいけない”という責任感をいつも以上に掻き立てられるのだろう。しかし、その重圧のせいで本来の力を発揮できず、チームの状態も乱れる悪循環に苦しんだ。主力が欠けた時に気負いせず、平常心を保つことが武智自身の課題となった。

 

 

上級生の自覚

 

(11) 今季の春季リーグ開幕戦。中大のスタメンは、昨年からガラリと変わった。関田と今村貴彦が卒業。エース石川は全日本の合宿で、ミドルブロッカーの渡邊侑磨はケガで不在だった。7人の中に3冠を経験したメンバーはミッドブロッカーの大竹壱青とリベロの伊賀亮平と武智の3人しかいなかった。

 

 新チームの試金石となる初戦は、新オポジットの谷口渉が積極的に攻撃を仕掛けて3-0の圧勝に終わった。特に第1、2セットは中盤以降、相手に一度もリードを許さず、中大がゲームの主導権を握り続けた。戦力が変わっても、前年3冠を成し遂げた王者の威厳は保たれたのだ。

 

 この試合で5本のスパイクを決めた武智の貢献度は攻撃面だけではない。セッターの代わりにトスを上げたり、相手の痛烈なスパイクを右手一本でレシーブするなど彼の持ち味である細かいプレーも徹底していた。攻守に渡りチームを支えていた武智からは、“悪いクセ”は微塵も感じられなかった。

 

 サーブを打つ後輩に向かって「笑顔で!」と声を掛ける姿からは、上級生の“余裕”すらうかがえた。武智は「1、2年生の面倒を見ないといけない学年なので、バレーボールに対する姿勢や私生活での行動や言動に気を付けたい。後輩にはしっかりと背中を見てもらえればと思います」と、コート内外でチームを引っ張るという意識は強い。

 

(9) 中大は春季リーグが開幕してから6試合負けなし。残り5試合で昨年の全日本インカレ準優勝の筑波大学をはじめ東海大学、順天堂大学など強豪校との対戦が残っているため、気は許せないが、試合を重ねるごとに「優勝」の2文字は色濃くなってきている。

 

 そんな中、中大は29日から開催される第65回黒鷲旗全日本男女選抜大会で、昨年まで共に戦った今村らが所属するパナソニックパンサーズとの対戦が決まった。武智は「いつかは(先輩たちと)戦いたいですね」と冗談交じりに話していたが、まさかこんなに早く“中大対決”が実現するとは思ってもいなかっただろう。

 

「企業のチームをひとつでも多く倒せるように頑張りたい」と口にする武智にとってこれは願ってもいないチャンスだ。依然として石川は出場できないが、エース不在でも強い中央を見せられるかどうか。全てはチームの“心臓”を担う武智に懸かっている。

 

(おわり)

 

プロフィール写真<武智洸史(たけち・こうし)プロフィール>

1996年1月1日、愛媛県松山市出身。小学2年にバレーボールを始め、雄新中学時代は全国大会に出場。星城高校では、2年からスタメンを獲得。全国高等学校総合体育大会、国民体育大会、全日本高等学校選手権大会の主要3大会を史上初の2年連続で制覇した。中央大学では、1年からスタメンで活躍。14年全日本インカレでは18年ぶりの優勝に貢献し、レシーブ賞を獲得。昨年5月にU23日本代表にリベロとして選出され、第1回アジアU23男子選手権大会に出場した。身長186センチ、体重78キロ。最高到達点330センチ。ポジションはリベロ、ウィングスパイカー。

 

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(文・写真/安部晴奈)

 


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