2000本安打を達成した新井貴浩(広島)の記念すべき一打を見て、17年前の“笑顔”を思い出しました。実は、新井がプロ初安打を放った時に一塁ベース上で「ナイスヒット」と祝福したのは、広島コーチ時代の僕です。あの時の「ニタッ」と喜ぶ表情はいまだに忘れられません。

 

 1999年にドラフト6位で広島に入団。下位指名だったことからも分かるように、新井は決してエリートではありません。しかし、何か独特な雰囲気を漂わせた選手でした。入団当初から彼を見ていますが、ここまで成長したのは「彼の人柄」に尽きるでしょう。

 

 新井は非常に明るく、チームの雰囲気を良くする選手です。一軍に定着していない頃、試合中はベンチで誰よりも声を出していました。試合に出たら出たで、“野球したくてたまらないんだ!”と、ハツラツにプレーしていました。そんな彼のキャラクターは、年を重ねても変わりませんね。

 

 あの笑顔が、彼の全てを物語っているのではないでしょうか。新井の笑顔を見ていたら、何だか元気になりますよね(笑)。

 

 新井が入団した年、私は広島の打撃コーチだったので、彼の打撃を初めて見た時、“力強いスイングで右中間方向に大きい打球を打てるバッターだな”という印象を受けました。

 

 忘れられないのが、甲子園で放った一発。あれはたしか、ルーキーイヤーだったと思います。逆風が吹く中、新井は右中間スタンドに放り込んだのです。あの瞬間、“あぁ、やっぱり将来はホームラン王だ”と確信しました。正直、ヒット数云々よりもホームラン王を獲れる逸材になってほしいという願望の方が強かったです。

 

猛練習の賜物

 

 当時の広島には前田智徳、金本知憲、江藤智と強打者が揃っていましたが、徐々に出場機会を得ていき、ポジションを掴んでいきました。

 

 二軍時代は、駒沢大学の先輩・大下剛史ヘッドコーチにかなりしごかれていました。時には冷たく突き放されることもありましたが、「お願いします!」と言って、泥臭く練習していたのを覚えています。

 

 プロである限り練習をするのは当たり前なので、“練習を沢山した”“人一倍、努力した”など、努力や根性を美化する表現はあまり好きではありません。しかし、彼は若い頃にがむしゃらに練習したからこそ、レギュラーを掴むことができ、あの強靭な肉体を手に入れたのだと思います。

 

 新井の素晴らしさは今回達成した2000本安打という数字はもちろんですが、これまでに05年本塁打王、11年打点王を獲得している点です。そして彼はバッティングだけでなく、守備力も磨き、08年には一塁手としてゴールデングラブ賞に輝きました。積み上げてきた数字以外にも、こうしたタイトルを獲っているところが、本当に素晴らしいです。

 

 新井にとって今年は30代最後のシーズンですが、カープの中心選手として第一線で活躍しているので年齢を気にする必要はありません。黒田博樹と新井の投打の2人が、チームに良い影響を与えていることは間違いないでしょう。若手から中堅クラスがベテラン2人に乗せられているような雰囲気を感じるので、40歳や45歳過ぎても現役を続けて欲しい選手です。

 

 最近の新井のプレーを見ていると、若い選手に囲まれているからか、プレースタイルがますます若返っているような気がします。これからも彼の持ち味である勝負強さ、そして“元気な新井”を見せてホームランを量産して欲しいですね。

 

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