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(写真:ガトリン<中央>に敗れたものの、桐生<右>ら日本人には先着した山縣)

 8日、リオデジャネイロ五輪の日本代表選考会を兼ねた「IAAF(国際陸上競技連盟)ワールドチャレンジ第3戦 セイコーゴールデングランプリ」が神奈川・等々力競技場で行われた。男子100メートルは2年ぶりに出場したジャスティン・ガトリン(アメリカ)が10秒02で優勝。日本人トップの2位には山縣亮太(セイコーホールディングス)が10秒21で入った。初の直接対決が注目された桐生祥秀(東洋大)、サニブラウン・アブデルハキーム(城西大附属城西高)は、桐生が4位、サニブラウンが5位だった。男子400メートルハードルは野澤啓佑(ミズノ)が48秒67で制した。野澤は日本陸上競技連盟が定める派遣設定記録(48秒74)を突破したため、五輪代表に近付いた。

 

 復活に懸ける日本人スプリンターが、自らの力を証明して見せた。男子100メートルは3年前の日本選手権王者で2012年のロンドン五輪代表の山縣が、日本人トップでゴールを駆け抜けた。先着を許したのはアテネ五輪金メダリストのガトリンのみだった。

 

 山縣はロンドン五輪では準決勝進出を果たしており、予選で叩き出した自己ベストの10秒07は、日本人五輪最速記録である。リオでの日本短距離界のエースと期待されていた。しかし、その後はケガに泣かされる。出場する大会も途中棄権、欠場が相次いでいた。その間にメキメキと頭角を現してきたのが、桐生であり、サニブラウンだ。

 

 桐生には2014年の日本選手権で後塵を拝した。翌15年には追い風参考記録ながら桐生が9秒87で走った。さらには世界ユース選手権2冠のサニブラウンが陸上界を席巻。「焦りもあった」と山縣は明かす。

 

 迎えた今シーズン。国内初戦の織田幹雄記念国際陸上競技大会は10秒25で優勝した。向かい風2.5メートルという悪条件の中での記録と考えれば、復調をアピールするには十分の出来だった。だが、織田記念には桐生とサニブラウン、さらには昨年の日本選手権王者・高瀬慧(富士通)もいなかった。完全復活と呼ぶには、まずはライバルたちから勝利しておきたいところだったのだろう。

 

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(写真:国内外のトップスプリンターが凌ぎを削った)

 ゴールデンGPは予選もない。いわば一発勝負のワンマッチ。「独特の緊張感があった」と山縣は語る。好記録、好勝負を期待して等々力競技場には2万3500人もの観客が詰めかけた。メインスタンドの観客が立ち上がって選手たちに声援を送っていた。スタート時刻は午後5時前。少し日も陰り、風も吹いており、場内は少し涼しくなっていた。

 

 スタートの号砲が鳴り、8つレーンに並んだ8人のスプリンターたちは一斉に駆け出した。リアクションタイムはガトリンとラモン・ギテンズ(バルバドス)が0秒142でトップ。山縣は2位の0秒148で反応した。「予定ではガトリンに並ぶ、もしくは先行できると思っていた」という。しかし、直後に山縣はバランスを崩す。転びはしなかったものの、減速は免れないはずだ。それでも「引きずらずうまく加速していけた」と、きちんと対応してみせた。

 

 1人抜け出したガトリンをとらえることはできなかったが、2着でゴールした。国内のライバルのみならず、自己ベスト10秒フラットの張培萌(中国)ら海外勢にも競り勝った。「勝つことができたので自信になった」と山縣自身も手応えを掴んでいる様子だ。「自己ベストを狙えると思っている。10秒06と9秒台はほとんど差がない。コンディションが合った時に9秒台を出せるという自信は昔より確実にある」とコメントした。

 

 今後は約2週間後の東日本実業団選手権に出場し、まずは目標最低ラインとなる五輪の参加標準記録(10秒16)の突破を狙う。かつて「9秒台は通過点」と言い切った男の逆襲がスタートする。そう期待せずにはいられない走りを見せてくれた。

 

 主な結果は次の通り。

 

<男子100メートル>

1位 ジャスティン・ガトリン(アメリカ) 10秒02

2位 山縣亮太(セイコーホールディングス) 10秒21

3位 ラモン・ギテンズ(バルバドス) 10秒26

 

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(写真:昨シーズン好調の藤光<左>を上回り、日本人トップの2位になった飯塚)

<男子200メートル>

1位 アーロン・ブラウン(カナダ) 20秒32

2位 飯塚翔太(ミズノ) 20秒40

3位 ダニエル・ベイリー(アンティグア・バーブーダ) 20秒75

 

<男子400メートルハードル>

1位 野澤啓佑(ミズノ) 48秒67

2位 エリックショーン・クレー(フィリピン) 49秒07

3位 松下祐樹(チームミズノ) 49秒10

 

<女子やり投げ>

1位 エリザベス・グリードル(カナダ) 62メートル59

2位 海老原有希(スズキ浜松AC) 62メートル13

3位 北口榛花(日大) 61メートル38 ※日本ジュニア新

 

(文・写真/杉浦泰介)