(写真:車いすマラソンの出場者を含め計3万6697人が参加した ©東京マラソン財団)

 3日、パリオリンピック男子日本代表最終選考を兼ねたアボット・ワールドマラソンメジャーズシリーズ(WMM)の東京マラソン2024が都庁前から東京駅前の行幸通りまでの42.195kmで行われた。優勝は2時間2分16秒の大会新記録をマークしたベンソン・キプルト。2位ティモシー・キプラガト、3位ヴィンセント・キプケモイ・ゲティッチとケニア勢が表彰台を独占した。日本人トップは全体9位の西山雄介(トヨタ自動車)で、タイムが2時間6分32秒。MGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)ファイナルチャレンジの設定タイム(2時間5分50秒)をクリアできなかったため、MGC3位の大迫傑(Nike)がパリオリンピック代表に内定した。

 女子はストゥメ・アセファ・ケベデ(エチオピア)が2時間15分55秒の大会新記録で優勝。車いすは鈴木朋樹(トヨタ自動車)が1時間23分5秒で男子の部、マニュエラ・シャー(スイスの1時間40分10秒で女子の部を制した。

 

 東京の名所を駆ける東京マラソン。国内有数の高速レースとしても知られる。男子はパリオリンピック日本代表最後の1枠をかけた争い。その1枠に滑り込むための設定タイム2時間5分50秒。現日本記録保持者(2時間4分56秒)の鈴木健吾(富士通)が2年前の東京マラソンで2時間5分28秒をマーク。前回大会では山下一貴(三菱重工)と其田健也(JR東日本)の2人が2時間5分台を記録しており、実現不可能な数字ではない。

 

 この日のスタート地点の気温は6度。天候にも恵まれ、好記録が期待された。各ランナーが都庁前から一斉に飛び出した。スタート直後から海外勢と国内勢で集団がくっきり分かれるかたちとなった。男子はペースメーカーは2つの集団を引っ張った。前世界記録保持者で、オリンピック連覇(リオデジャネイロ、東京)中のエリウド・キプチョゲ(ケニア)らが1km2分48秒というハイペースで進めた。もう1つのペースメーカーは国内勢を中心に大きな集団を形成した。

 

 入りの5kmは先頭集団が14分16秒で通過。以降5kmごとに14分14秒、14分22秒、14分22秒と世界記録ペースを刻んだ。レースが動いたのは20km手前から。優勝候補に挙げられていたキプチョゲが遅れ始めた。日本人集団では西山雄介、木村慎(Honda)ら数人が転倒するアクシデントが起こった。

 

 23km過ぎでは東京オリンピックマラソン代表の服部勇馬(トヨタ自動車)らが遅れる。25kmでは、キプルト、キプラガト、ゲティッチによる三つ巴がペースメーカーより前に出た。日本人グループは27kmm過ぎ、鈴木健吾が遅れ、先頭には西山雄介が立った。西山雄介はその後浦野雄平(富士通)に一度は追いつかれたが、33km過ぎに抜き返し、日本人トップをキープする。

 

 先頭争いは35km通過地点で、キプルトとキプラガトのマッチレースに絞られた。自己ベストはキプラガトが2時間3分50秒、キプルトが2時間4分2秒と大きな差はない。キプルトは40km手前でキプラガトを引き離しにかかる。そのままキプルトは先頭でフィニッシュ。2年前にキプチョゲがマークした大会記録を24秒、自身の自己ベストは1分46秒塗り替えた。途中の世界記録ペースで走りながら「気付いていなかった。もし破ったとしても不思議ではない」と涼しい顔。“2時間切り”については「そのための準備をしている。不可能なことではない」と言い切った。

 

 キプルトから遅れること4分15秒。日本人で最初にフィニッシュしたのは西山雄介。レース中の転倒がありながら日本歴代9位となるタイムを叩き出したものの、パリ行き切符には42秒届かなかった。「2時間5分を切らないと意味がない。悔しいです」と涙のゴールとなった。「今まで一番いい状態でスタートラインに立った。5分台切る練習を積み、切る自信もあった。結果的には全然足りなかった」と肩を落とした。最大の目標としていたオリンピック行きは叶わなかった。今後については「全てをここにかける思いでやってきた。ゆっくりどうするのかを考えていきたい」と語った。

 

 海外勢と国内勢との力の差が浮き彫りになった大会でもあった。17回目の開催にして、日本人が入賞圏内から漏れたのは初。それだけ海外の有力ランナーを集めたレベルの高い大会という証左でもあるが、ホスト国としては寂しい結果である。先週の大阪マラソンで平林清澄(國學院大3年)が日本歴代7位の2時間6分18秒という好タイムをマークして優勝。若い力が伸びてきているだけに、その勢いを加速させるためにも、まずはパリオリンピックで世界と戦えるところを示したい。

 

(文/杉浦泰介)