これからは走ることの「楽しさ」を伝えていきたい ~弘山晴美氏インタビュー~
トラック種目で3大会連続の五輪出場を果たすなど、女子中長距離界で一時代を築いた弘山晴美さん。パリ五輪で活躍が期待される陸上選手などについて、当HP編集長・二宮清純と語り合う。
二宮清純: パリ五輪(7月26日開幕)まで3カ月を切りました。弘山さんが注目している陸上選手は?
弘山晴美: 短距離も、中長距離も若い選手の活躍が楽しみですが、中でも気になるのはトラック種目の田中希実選手ですね。
二宮: 田中選手は現在、女子1000m、1500m、3000m、5000mで日本記録を保持する期待のエースです。弘山さんの目から見て、優れている点は?
弘山: 初めて見た頃に比べて、フォームが前傾姿勢になってスピードが出せるように進化しています。ラストスパートした時の力強い腕の振りも印象的ですね。
二宮: フォームに関して言えば、身長は決して高くない(153cm)のに大きく見えるというか、ストライドが広い気がします。
弘山: 確かにストライドが広いですね。あと素晴らしいと思うのは、体が丈夫なこと。あれだけ走り込む上に、アメリカやらケニアやらに練習で行ってもけがをしないのは、すごいことだと思います。
二宮: パリ五輪では1500mと5000mの出場が予想されますが、期待はどちらの種目でしょうか。
弘山: 5000mだと思います。
二宮: 5000mは弘山さんも経験しています。体力的にかなりきつい種目でしょう?
弘山: そうですね。3000mを過ぎたあたりから急激にきつくなって、そこを我慢して最後のスパートにつなげなければなりません。
二宮: ラスト1~2周(1周400m)のスパートは、誰もが短距離走のような走りになりますね。
弘山: よく「ギアを上げる」と表現されますが、まさに足への力のかけ具合がより強くなる感じです。この点、田中選手は800mにも挑戦しているので、それがラストスパートにおけるギアの切り替えにも好影響を与えていると思います。
二宮: 5000mは長丁場になりますから、位置取りも大事でしょう?
弘山: はい。田中選手は外側の位置を取りがちなので、そこは少しもったいないなと思います。一方で内側に入ると、どうしても他の選手との接触のリスクが高まる。田中選手は小柄ですし、自分のリズムで走るために外を取りたくなるのは分かりますが……。
二宮: 外を走る分、距離のロスがありますよね。
弘山: おっしゃるとおりです。集団が縦長の時はそれほど気にはなりませんが、スローペースで膨らんだ時は、それだけ外を走らされてロスが生まれます。
二宮: 弘山さんは、レース中に転倒したことはありますか。
弘山: 転倒はありませんが、1500mのレースで足を踏まれて片方のシューズが脱げたことはあります。
二宮: それは大変だ。靴はどうしましたか?
弘山: いえ、マラソンなら拾いに行きますがそんな時間はないので、そのまま走ってゴールしました。左右のバランスが取れなくて、おかしな走り方になりましたね(苦笑)。
(詳しいインタビューは5月1日発売の『第三文明』2024年6月号をぜひご覧ください)
<弘山晴美(ひろやま・はるみ)プロフィール>
1968年9月2日、徳島県鳴門市生まれ。中学時代から陸上競技を始め、徳島県立鳴門高校から国士舘大学を経て、91年、資生堂に入社。中長距離で活躍し、特にトラック競技では、96年アトランタ(女子5000m)、2000年シドニー(女子1万m)、04年アテネ(同)と3大会連続で五輪に出場した。世界陸上にも4度出場し、ヘルシンキ大会(1999年)女子1万m4位など、合計3種目で入賞を果たす。1500m、3000m、5000mの3種目で日本記録を保持していたことから、「トラックの女王」とも呼ばれた。マラソンでは、2006年3月の名古屋国際女子マラソンで初優勝。09年の東京マラソンを最後に現役引退した。現在は講演活動や市民マラソンのゲスト出走、ランニングクリニックなどを通じて、自身の経験や走る楽しさなどを伝えている。