28日、パリオリンピック日本代表選考会を兼ねた第43回大阪国際女子マラソンがヤンマースタジアム長居を発着点に行われた。東京オリンピック代表の前田穂南(天満屋)は日本記録を更新する2時間18分59秒で2位に入り、パリオリンピック代表枠に大きく前進した。優勝はエチオピアのウォルケネシュ・エデサ。2時間18分51秒で大会記録を塗り替えた。

 

 18年4カ月続いていた日本の“ベルリンの壁”が破られた。前田は2005年9月のベルリンマラソンで野口みずきが樹立した日本記録(2時間19分12秒)をついに塗り替えた。

 

「アレ」を達成する――。レース前から前田は公言していたという。18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一を達成したプロ野球の阪神タイガースが優勝を「アレ」と隠語にしたように、阪神ファンの前田は日本記録更新を「アレ」と呼んだ。

 

 日本人現役最速の2時間19分24秒(歴代2位)の記録を持つ新谷仁美(積水化学)含む5人のペースメーカーに引っ張られるかたちで、先頭集団はエデサ、ステラ・チェサン(ウガンダ)の海外招待選手、前田、松田瑞生(ダイハツ)、佐藤沙也加(積水化学)ら7人が形成した。5kmの通過ラップは20kmまで16分30秒前後といいペースで運んだ。

 

 前田はペースメーカーが離れるより先に仕掛けたのが中間点だ。日本記録更新ペースで快調に突き進み、後続を突き放す。30㎞を通過しても依然として日本新ペース。中継局のフィニッシュ予想タイムは2時間18分台も見えてきた。しかし31km過ぎでトップを奪われる。2時間18分51秒と出場選手最速の自己ベストを持つエデサに、徐々に引き離された。

 

 35km通過は1時間54分57秒とエデサに11秒遅れた。それでも前田は粘りの走り。一時は落ちたペースを振り戻し、40km通過はエデサと8秒差。トップの背中を追いかけながら、ヤンマースタジアム長居に戻ってきた。武富豊監督の待つ、ゴールを目指した。大会記録を更新したエデサから8秒遅れてフィニッシュ。見事に「アレ」を達成してみせた。

 

 前田は「日本記録更新を狙っていたので、すごくうれしいです」と喜んだ。

「去年のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)で練習してきたこと出し切れず、悔しい思いをした。今回、大阪に向けて継続して練習をやってこれた。今の力を出し切ることができたと思います」

 

 既に昨年9月開催のMGCで、パリオリンピックの女子マラソン代表は鈴木優花(第一生命)、一山麻緒(資生堂)が決まっている。残り1枠をかけたMGCファイナルチャレンジは残すところ3月のナゴヤウィメンズマラソンのみ。ここで誰も前田の記録を上回れなければ、彼女の2大会連続のオリンピック代表に決まる。

 

(文/杉浦泰介)