(写真:クリーブランドの街でレブロン悲願の優勝パレードが行われる日はやって来るのか)

(写真:クリーブランドの街でレブロン悲願の優勝パレードが行われる日はやって来るのか)

 NBAの2015~16年シーズンも大詰めを迎え、クリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)が順調に勝ち進んでいる。

 イースタンカンファレンスの第1シードでポストシーズンに進んだキャブズは、プレーオフで無傷の10連勝。カンファレンス決勝でもトロント・ラプターズを2勝0敗とリードし、2年連続のファイナル進出にあと2勝に迫っている。

 

「僕たちには優勝する準備が整っていると感じている。このチームに自信を持っているし、目標にしているのはそれだけなんだ」

 3月下旬、ニューヨークでのゲームの際にレブロン・ジェームスがそう語ったときには、その言葉は一般的に真剣に捉えられていなかった感があった。シーズン中はウェスタンカンファレンスに属する昨季王者ゴールデンステイト・ウォリアーズ、強豪サンアントニオ・スパーズが歴史的なペースで勝ち続け、この2強の総合力が頭一つ抜けていると思われていたからだ。

 

(写真:昨季はケガに泣いたアービングもリベンジに燃えている Photo By Gemini Keez)

(写真:昨季はケガに泣いたアービングもリベンジに燃えている Photo By Gemini Keez)

 しかしプレーオフが始まって以降、快調なプレーを続けるキャブズへの評価は一気に高まっている。ラプターズとの東地区ファイナルでは第1戦で31点差、第2戦では19点差でどちらも圧勝。もともとイーストでキャブズは頭一つ抜けた存在と見られていたが、それでもプレーオフにこれほど圧倒的な点差で勝てるものではない。

 

「キャブズは良い流れになっている。1年前の現時点と比べて、レブロンが手に取っているシュートの数が約100本も少ない。チーム内に他にも武器があるから打つ必要がなくなっているんだ。状態が良く、特別な予感が漂い始めている」

 ESPN.comのブライアン・ウィンドホースト記者がPodcast内でそう語っていた通り、多くのタレントを擁するキャブズは、最も大事な季節に綺麗にピークを合わせてきた感がある。

 

(写真:3点シュートが得意なJR・スミスも重要な得点源だ Photo By Gemini Keez)

(写真:3点シュートが得意なJR・スミスも重要な得点源だ Photo By Gemini Keez)

 思えば1年前。レブロン復帰1年目のキャブズはプレーオフで波乱の道のりを余儀なくされた。第1ラウンドでケビン・ラブ、ファイナル第1戦でカイリー・アービングといった主力が故障離脱。以降は苦しい陣容でのプレーが続き、最終的にファイナルでは2勝4敗でウォリアーズに敗れた。

 

 しかし、今季は状況がかなり違う。大きなケガを抱えている選手は一人もおらず、疲れの溜まるはずの時期にベストに近いコンディションを保っている。ラプターズとの第2戦ではレブロンがトリプルダブル(23得点、11リバウンド、11アシスト)、アービングが同シリーズ最初の2戦で合計53得点をマークするなど、二大プレーメーカーが絶好調。2人が開いたスペースを生かし、周囲のシューターたちも気持ち良さそうにアウトサイドからシュートを決めている。

 

 ラプターズにも4連勝か4勝1敗で早々とイースタン制覇を決めれば、6月2日のファイナル第1戦までゆっくり身体を休められるのも大きい。

 

 歴史的なファイナルになる可能性

 

(写真:シーズン中にタィロン・ルーが新HCとしてチームを引き継いで以降、コミュニケーションが円滑になったと言われる Photo By Gemini Keez)

(写真:シーズン中にタイロン・ルー<右>が新HCとしてチームを引き継いで以降、コミュニケーションが円滑になったと言われる Photo By Gemini Keez)

 試合勘の鈍りは気になるが、過去2ラウンドもスイープで勝ち上がってきただけに、選手たちはすでに調整方を心得ているはずだ。長いシリーズになりそうな西地区ファイナルのウォリアーズ対オクラホマシティ・サンダー戦を横目に見ながら、万全の状態で最終決戦に備えられることだろう。

 

 今季もウエストのレベルは高い。NBA新記録のシーズン73勝をマークしたウォリアーズ、ケビン・デュラントとラッセル・ウェストブルックという2枚看板を擁するサンダーはもちろん脅威のチームではある。それでも、これだけキャブズにとっての好材料が揃えば、今季はもしかしたら……。

 

「クリーブランドを離れたときの僕には使命があった。それはチャンピオンになること。そして僕はそれを2度達成することができた。マイアミはその味を知っているが、僕の故郷はもう長く味わえていない。目標は可能な限り多くの優勝を経験することだが、それをオハイオ州北東部にもたらすことが今の僕には何よりも大切なんだ」

 2014年夏。マイアミ・ヒートから古巣キャブズへの復帰を決める際の手記に、レブロンはそう記した。

 

 そこでの言葉通り、NBAに限らず、1964年にスーパーボウルを制したブラウンズ(NFL)を最後に、クリーブランドのメジャースポーツチームは50年以上も優勝を味わっていない。この地元にトロフィーをもたらすことが、オハイオ州出身のレブロンにとっての使命だった。迎えた2016年、キャブズとレブロンに絶好機が到来したと言えるのだろうか。

 

(写真:キャブズを頂点に導けば、オハイオ州でレブロンの名は生きる伝説になる Photo By Gemini Keez)

(写真:キャブズを頂点に導けば、オハイオ州でレブロンの名は生きる伝説になる Photo By Gemini Keez)

 ウォリアーズ、サンダーのどちらが上がってきても、ファイナルの下馬評ではやはり群雄割拠のウエストの覇者が有利と目されるだろう。例えそうだとしても、今のキャブズの充実振りを見る限り、最終決戦が一方的なものになるとは思えない。東西の代表ががっぷり四つに組合い、歴史的な激闘シリーズになることも十分に考えられる。

 

 すでに31歳になり、体力的にそろそろ下り坂に入り始めるであろうレブロンにとっても、今年のファイナルはレガシーを左右する大勝負である。

 

 今季のNBAシーズンもまもなくクライマックスを迎える。ここから先の戦いを見逃してはならない。2016年のファイナルは、今後、長く語り継がれる歴史的シリーズになる可能性が十分すぎるほどあるからだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

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