「新顔」にとって試合より大切なこと

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 いつの時代も「新顔」には注目が集まる。

 キリンカップ(3日準決勝ブルガリア戦、7日決勝or3位決定戦)に臨む日本代表メンバー25人に、初選出は2人。U-23代表のMF大島僚太(川崎フロンターレ)と“プラチナ世代”のMF小林祐希(ジュビロ磐田)が入った。彼らの動向を伝える報道が目につき、期待の大きさがうかがえる。

 

 しかしブルガリア戦での出番はないようだ。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が公式会見で示唆したという。ただ、5月26日のメンバー発表会見の際も指揮官は大島について「(試合で)プレーさせるかどうかは分からない」、小林祐についても「守備で頑張るところがない。A代表でやるには(攻守)両方必要」と語っている。まずは代表でやるべきことを教えるというスタンスでの招集だと捉えることができる。ひょっとすると7日の試合でも、2人のA代表デビューは見送られるかもしれない。

 

 新しく招集した若い選手の起用に対し、神経を尖らせている指揮官の姿が見えていた。

 これはアルベルト・ザッケローニ監督もそうだった。初めて招集する選手については基本的にいきなり試合には使わない。会見で若い新戦力の起用を聞かれると「まずはこの代表のやり方というものを学んでもらう必要がある」「まず自分の間近に置いて彼らを見たい」と決まってそう返していた。

 

 ハリルジャパンで常連メンバーとなっているFW宇佐美貴史(ガンバ大阪)を初めてA代表に呼んだのが、そのザッケローニである。2011年6月のキリンカップ(対ペルー、チェコ)に招集したものの、結局2試合とも使わなかった。当時19歳の宇佐美はチェコ戦の後「試合には出たかったですけど、代表のスピードというものを経験できたし、多くのことを学べた。Jリーグに戻ったら、もっと余裕を持ってプレーできるようになると思う」とコメントを残している。宇佐美自身、代表のやり方を学び、代表の雰囲気を知ることができたという点でプラスに捉えていた。

 

 実はこのとき、ザッケローニ監督は宇佐美と“面談”していたことが矢野大輔通訳の『通訳日記』(文藝春秋刊)で明かされている。その席で指揮官は、宇佐美にこう語りかけている。

<「まだ19歳なんだから、伸びしろは十分にある。私がこれまで見てきた中で一流になる選手は、常に成長している。メッシもそうだろう? 日々進化しているだろう? だからJの試合一つ一つが自分の成長になると思ってプレーすること」>

 

“代表に入ったぐらいで満足するんじゃない。これからもっと向上心を持って、日々取り組んでいけ”。そのようなメッセージを自らの言葉で直接伝えることで、選手に奮起を促したのだ。宇佐美は結局、ザッケローニ監督時代に「A代表デビュー」は訪れなかったものの、ハリルジャパンではメンバー最多となる14試合に出場している。

 

 ザッケローニ監督がすぐに若い新戦力をデビューさせなかったのは、「勘違い」させない意味もあった。A代表に入ると、注目度も一気に上がる。そのことで自分を見失ってしまう怖れもあるからだ。特にメンタルで向上途中にある若い選手の場合、そのリスクが高くなる。ザッケローニは直接手元に置いて、プレーばかりでなく彼らの日ごろの振る舞いや内面を見ることでデビューのタイミングを考えていたように思う。

 

 日本代表歴代最多キャップ数を誇るMF遠藤保仁(ガンバ大阪)や、日本のエースであるFW本田圭佑(ACミラン)も最初はサブからのスタートだった。出場機会はなくとも、代表のやり方を覚え、代表の雰囲気を知って、来たるべきチャンスに備えていく。サブを経験して彼らは這い上がっていったのだ。

 

 大島、小林祐の「新顔」2人は、たとえキリンカップで出場機会がなくとも下を向く必要はない。代表メンバーとともに練習で一緒に汗を流すことで、吸収できるものは多いはず。大事なのは試合に出る出ないではなく、この期間で何を感じ取れるか、である。

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