8月のリオデジャネイロ五輪に臨むU-23代表のオーバーエイジ(OA)に、ガンバ大阪のDF藤春廣輝、サンフレッチェ広島のDF塩谷司が内定した。

 

 藤春は快足の持ち主で運動量もある左利きのサイドバック。昨年3月、日本代表監督に就任したヴァイッド・ハリルホジッチの“初陣”となるチュニジア戦、ウズベキスタン戦に招集された。11月にアウェーで行われたW杯ロシア大会アジア2次予選のカンボジア戦では左からのクロスでFW本田圭佑のゴールをアシストしている。国内屈指のサイドバックに成長した。

 

 一方の塩谷はパワフルなストッパーで、得点能力も高い。アルベルト・ザッケローニから2014年4月の代表国内合宿に呼ばれ、右サイドバックでテストされたことで注目を集めた。ハビエル・アギーレ体制、そして現体制でも招集されており、センターバック、サイドバックをこなせるユーティリティープレーヤーとして評価は高い。昨季は広島のリーグ制覇に貢献している。

 

 2人のOA入りについて手倉森誠監督はJFAを通じて、こうコメントを述べている。

「リオ五輪ではタフさが求められます。そういう意味で2人ともタフですし、藤春選手はアップダウンの活動量、塩谷選手は対人の強さと高さを兼ね備えており、最終ラインの守備力と攻撃力を高めてくれることを期待しています。(中略)日本代表にはまだ定着しきれていませんが、これからの伸びしろがすごくある選手たちです」

 

今季はチーム成績こそ今ひとつであるが、彼らは変わらずレギュラーで奮闘している。そして球際でファイトできるのも、タフという言葉に内包されるだろう。U-23代表の最終ラインはケガ人続きで、サイドバックの人材不足も指摘されるなかタフで鳴るディフェンダーの2人に白羽の矢が立ったということだ。

 

 興味深いのは前回、ベスト4に躍進した関塚ジャパンのコンセプトとは異なること。

 当時の関塚隆監督は「年齢が近い」「五輪の経験がある」を重視して、アテネ五輪出場のDF徳永悠平と北京五輪出場のDF吉田麻也を選出した。大舞台での経験がU-23世代に還元され、チームは準決勝まで進んだ。

 

 しかし今回は、藤春、塩谷ともに27歳と「年齢が近い」は共通していても、五輪経験はない。アンダー世代ではほぼ無名の存在で、“遅咲き”なのである。世界の舞台というのも今回が初めてである。

 関塚ジャパンとまったく逆のアプローチになるが、手倉森監督はここに狙いがあるように感じる。

 

 大舞台に対する意欲と、世界を初めて経験することによって生じる“伸び”。指揮官も「U-23日本代表のレベルを引き上げてくれるとともに、2018年のロシアを見据えているこのチームで彼らも成長する可能性があると思います」とコメントしている。U-23代表のメンバーたちと競わせる相乗効果でチーム全体を引き上げていきたいという考えが透けて見えてくる。

 

 2人はハリルジャパンの常連組ではない。彼らにとっても「リオ経由ロシア行き」を達成するための大きなチャンスであり、懸ける思いは強いはずだ。その欲があればあるほど、チームにいい影響が出てくるに違いない。

 

 OAのもう1枠は浦和レッズのFW興梠慎三が有力候補だという。強靭なフィジカルと確かなテクニックを兼ね備える万能ストライカーの存在は、チームにとって大きな力となることは間違いない。彼は世代別の代表に選ばれてきたものの、北京五輪本大会、W杯を含めて世界の舞台を踏んでいない。最後に落選してきた悔しさが今の彼をつくっている。

 

 大舞台の経験がないことを、パワーに変えて――。

 OAの3戦士が、手倉森ジャパンの命運を握る。


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