皆さん、こんにちは! プロ野球は交流戦が始まりましたね。その昔から「人気のセ、実力のパ」と言われていましたが、この数年の交流戦の結果で「実力のパ」は当然として、選手の顔ぶれを見ても「人気もパ」に変化しているような気がします。セ・リーグも意地を見せてもっと頑張って欲しいものですね。

 

 さて前回まではセカンドキャリア成功を目指すための心の持ち方について言及してきました。セカンドキャリアにはマインドセットをすることが大切だと書きました。マインドセットというのは何か物事を進めるときに、その意味や目的を意識することです。セカンドキャリアでいえば「何のためにその仕事に就くのか」といった心構えになるでしょう。

 

 今回からは選手自身の問題ではなく、その周辺にも目を向けてみたいと思います。セカンドキャリアで問題がなぜ起きるのか。その本質部分にフォーカスしていきたいと思います。

 

 自分がセカンドキャリア問題を考えるようになったのは、ホークスの営業をしていた十数年前のことです。当時は選手が現役中に勉強することが解決方法だと考えていて、球団に「セカンドキャリア問題を解決するために、選手に学ぶ機会を作りましょう」と進言したこともありました。しかし、「野球選手は野球のことだけ考えてればいい」という大御所の一言で、この話は消えていってしまいました。

 当時を思い起こすと、「それはあなたが野球界で成功してるから言える言葉でしょう。そういう考えがセカンドキャリア問題を起こしてるんだ!」と真剣に怒っていたと記憶しています。大御所に噛みつくなんて若気の至りですよね……。

 

 それから時が経ち、自分が実際に引退選手たちのセカンドキャリア支援に関わるようになったのは5年前のことです。彼らと接し始めるといつの日からか「セカンドキャリア問題とは本当に選手だけの問題なんだろうか?」と疑問を持つようになりました。

 野球というスポーツに真剣に打ち込んできた選手たちがいざ自分のセカンドキャリアのことになると、どうして自ら考えて行動できない人間になってしまうのか。それを日々考えていました。

 

 野球から少し離れますが、大きなヒントになったのは昨今言われている「ゆとり世代」という言葉です。自分たちが若い頃も「新人類」と言われ、「お前ら何を考えてるかわからん」と先輩によく言われていたものです。ゆとり世代も何かあるたびに「これだからゆとりは」と言われていると思います。

 でもゆとり世代が、もし自分たちと同じ教育を受けていたらどうなったのでしょう。もちろん「ゆとり」とは呼ばれません。「ゆとり」を作ったのは大人たちで、大人が構築して推進したゆとり教育という制度の中で、「ゆとり」と呼ばれる子供たちが育ってしまったということです。つまり環境が人を作ったことになります。

 

 それと同じように野球選手が考えることが苦手であったり、勉強が嫌いであったり、野球以外のことはできないと思い込むようになるのは、周囲の環境のせいではないのかと考えました。そうすることで答えに少し近づくことができました。しかし環境といってもどんな環境がセカンドキャリアの問題になってるのか。皆さんはお気づきですか?

 

 その前にそもそも環境とは何でしょうか。辞書で調べてみると『まわりを取り巻く周囲の状態や世界。人間あるいは生物を取り囲み、相互に関係し合って直接・間接に影響を与える外界』と書いてあります。なかなか難しい言葉ですが、ご安心ください。野球の世界での環境に焦点を当てて書かせてもらいます。

 

 さて環境とは何か、を理解するのに大切なキーワードがあります。それは「モチベーション」という言葉です。スポーツに関わる人、特に指導者なら知っていて当たり前のこと、というより知らずに選手を指導していたら恐ろしいことです。モチベーションとは何かを成し遂げるときの力となる「動機づけ」のことです。

 

 モチベーションには心の内側から生まれる「内発的動機づけ」と外からの刺激によって起こる「外発的動機づけ」があります。モチベーション理論のひとつ、フロー理論では内発的動機づけこそが強いモチベーションとなり、最大のパフォーマンスを発揮し、結果に繋がると提唱しています。他の理論でも同様に、内発的に動機づけられることが重要とする研究結果が出ています。

 ということは常に選手たちが「内発的に動機づけられた状態」、つまり「自らの考えでやる気に満ちて動いている状態」にあると、パフォーマンスが上がり、それに伴ってチームの力も上がるということです。

 

 ではその内発的動機づけを生み出すには、どのような環境が最適なのか。それはアメリカの心理学者エドワード・L・デシが「認知的評価理論」の中でこう主張しています。「人は3つの悦びを感じた時に、内発的に動機づけられる」と。この3つの悦びについて次回で詳しく説明していきたいと思います。お楽しみに!

 

1600314taguchi田口竜二(たぐち・りゅうじ)
1967年1月8日、広島県廿日市市出身。
1984年に都城高校(宮崎)のエースとして春夏甲子園出場。春はベスト4、夏はベスト16。ドラフト会議で南海ホークスから1位指名され、1985年に入団し、2005年退団。現在、株式会社白寿生科学研究所人材開拓グループ長としてセカンドキャリア支援を行なっている。

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