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(写真:MMA転向後、戦績は勝ち越しているが、インパクトは大きくない)

 リオ・デ・ジャネイロ五輪が目前に迫っている。ということは、2012年のロンドン五輪から4年、08年北京五輪から8年が経つことになるのだが、気になるのは、この時に金メダルを胸に輝かせてプロのリングに足を踏み入れた2人の日本人ファイターのことだ。

 

 石井慧と村田諒太。

 

 08年北京五輪・柔道100キロ超級の金メダリストとなった石井は、その直後に総合格闘技転向を表明し、09年大晦日の『Dynamite!!』で総合格闘技デビューを果たした。だが、“石井人気爆発”に向けて用意された大舞台で、石井は、すでにピークを過ぎ引退を目前に控えていた吉田秀彦に敗れてしまう。これで石井への期待が一気にトーンダウン。これまでに20試合を行い、14勝5敗1分けの成績を残してはいるが、周期の期待に応えたとはいい難い。

 

 エメリヤーエンコ・ヒョードルにKOで敗れ(11年大晦日)、ミルコ・クロコップに連敗(14年8月&大晦日)、昨年12月29日には、『RIZIN』の100キロ級トーナメントに出場するも1回戦で新鋭イリー・プロハースカに秒殺されてしまった。「ここ一番」の闘いで勝てなかったのだ。現役続行中の石井は、6月24日、米国セントルイスでベラトール主催のイベント『DYNAMITE2』でクイントン・ランペイジ・ジャクソンを相手に再起戦を行なうことが決定。正念場が続く。

 

 さて、ロンドン五輪・ボクシングミドル級金メダリストの村田諒太はどうか?

 

 ロンドン五輪翌年の13年8月に当時、東洋太平洋&日本ミドル級王者であった柴田明雄に2ラウンドTKO勝ちで鮮烈デビュー。これまでに10試合を行い、全勝7KO勝ち。WBA、WBC、IBF、WBO主要4団体すべてのランキングで10位以内に名を連ねている。7月23日には米国ラスベガスでジョージ・タドニパーと闘うことが決まっており、来年中の世界王座挑戦を狙っている。

 

 こう書くと、いかにも順風満帆のように思えるが、実は、そうでもないように思う。村田は着実に成長している。しかし、ここまで至るのに時間がかかり過ぎてはいないか。

 

 気になる成長の“スピード感”

 

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(写真:デビューから負け知らずで3年が経とうとしているが……)

 ファンを魅了するためには、スピード感も必要だ。この情報過多の時代において、試合間隔を空け過ぎると観る者の興味が薄まってしまう。世界チャンピオンになった後ならともかく、そこに至る過程で次が11戦目というのは少ないように思うのだ。

 

 たとえば、92年バルセロナ五輪・ライト級金メダリストに輝いたオスカー・デラホーヤ。

 

 五輪から3カ月後にプロデビューを果たした彼は、それから毎月のようにリングに上がり勝利を重ねていた。そして、デビューから僅か1年4カ月後にWBO世界スーパーフェザー級のベルトを腰に巻いているのである。

 

 1年4カ月で世界王者というのは稀なスピード出世ではあるが、デビュー直後に毎月のようにリングに上がるというのは決して特殊な例ではない。かつての名王者マイク・タイソン、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオらもデビュー直後はハイペースで試合をこなして腕を上げていき、同時にファンを一気に魅了していったのである。

 

 ジックリ、ジックリと歩を進めるのも決して悪いことではない。成長し続けるのは素晴らしいことだ。しかし、プロであることを考えれば、スピード感を伴って観る者に「勢い」を感じさせることも必要だろう。

 

 村田は確実に強くなってはいる。それでも、温室育ち的な観がぬぐえず、王座に登りつめるために欠かせない「勢い」が感じることができない。7月、ラスベガスのリングで、そのイメージを一変させてくれることを期待したい。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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