1 今季の日本女子ソフトボールリーグ1部は、日立サンディーバ(昨季5位)と豊田自動織機シャイニングベガ(同3位)が開幕カードの第1試合を飾った。サンディーバの先発マウンドに立ったのは、エースの背番号「11」を付けた泉礼花である。泉はシーズンが始まる前から「開幕投手になります!」と、周囲に堂々と宣言するほど、今季にかける思いは人一倍強かった。

 

 泉は2年前の日本リーグ新人王で、昨年5月には2020年東京五輪に向けたターゲットエイジ(24歳以下)を対象にしたTAP-A日本代表にも選出されるなど、将来を嘱望される24歳の右腕だ。今季で在籍3年目を迎えた泉は、チームを引っ張る立場にある。ルーキーイヤーの14年は先発ローテーションを任され6勝4敗の好成績を収めたが、昨年は故障に苦しみ3勝2敗と振るわなかった。それゆえ、今季の開幕マウンドには並々ならぬ思いを持って上がった。「昨年の思いもプラスされて、(開幕戦は)自分の気持ちが口から出そうでした。それぐらい強い気持ちでマウンドに上がった」と、心の内を明かす。

 

 開幕戦に照準を合わせ、心身ともに万全に準備を整えていた泉には不安要素は一つもなかった。1球目を投げて“いける”と手応えを掴むと、トップバッターをフライに打ち取る。ストレートとチェンジアップを織り交ぜた投球で打者を翻弄する姿は、いつもと変わらない。順調な立ち上がりを見せたように思えた。

 

 ところが直後、ゲームは彼女の予想に反した展開となる。1死から死球とヒットで1死一、二塁にすると、4番の国吉早乃花にレフトの頭上を越える打球を飛ばされた。その間にランナーが2人生還。なおも1死二塁とピンチは続くと、後続にタイムリーを浴びて、初回だけで3失点を喫した。マウンドに上がってから、わずか5分の出来事だった。

 

 2回以降、マウンド上に泉の姿はなかった。一体、彼女の中で何が起こったのか。本人は「打たれてしまった原因は冷静さに欠けたこと。熱い気持ちだけではダメ。冷静さを持っていなければ、抑えることはできない」と分析する。

 

 結局、開幕戦は2-4で敗れて、チームは幸先悪いスタートを切った。開幕投手の役目を果たせなかった泉は、「自分が投げる試合は常に“勝つ”と思ってやっているので、開幕戦で納得のいく結果を残せなかった悔しさは根底にあります」と悔やむ。

 

 ホームランほど悔しいものはない

4 6月に日本リーグ前半戦が終了し、サンディーバは7勝4敗で4位にいる。上位4チームまでが進めるプレーオフ出場圏内だ。泉は先発2試合とリリーフ2試合の計4試合投げて、2勝1敗。防御率2.47は開幕戦の1回3失点が影響しているが、他3試合の内容は決して悪くはない。

 

 データを見ていて気になったことがある。今季打たれた2本塁打ともに先頭打者から打たれていることだ。逆にスコアリングポジションにランナーを背負った時は被打率.231と打たれていない。ピンチになるとギアが入り燃えるタイプなのか。

 

 本人に質してみた。

「そうですね。絶対にホームを踏ませないという気持ちは常に持っています。でも、自分が一番悔しいのはホームランです。やはりホームランはピッチャーだけの責任。野手はどうにもできないことなので、ホームランを打たれた時ほど悔しいことはないです」

 

 今季打たれた2本のホームランの内訳を見てみよう。1本目は5月15日のSGホールディングスギャラクシースターズ戦、6回表ノーアウトから1番のステーシー・ポーターにレフトスタンドに運ばれた。ポーターは14年本塁打王で元豪州代表のスラッガーだ。当たった瞬間に“行った”と分かるような特大ホームランだった。泉のボールはやや高めだったが、失投ではなかった。

 

2 泉は「ポーターさんの打席は、ずっと内角を攻めていた。内角を張られているのは分かっていたんですけど、ぎりぎりのところを思い切って投げ込んでいたら、相手が上でした」と振り返る。

 

 2本目が6月4日のトヨタ自動車レッドテリアーズ戦、4回表ノーアウトで6番の峰幸代に右中間に運ばれた。峰は元日本代表の正捕手で北京五輪の金メダル獲得に貢献した。泉は峰とこれまでもリーグ戦で何度か対戦していた。2年前、峰がルネサスエレクトロニクス高崎に在籍していた時に、泉は1死二塁の場面でリリーフ登板した。だがフォアボールとエラーで塁を埋めてしまう。この大ピンチで泉は峰をセカンドゴロに打ち取り、無失点で切り抜けた。泉はこの時の経験から峰に苦手意識を抱いていないはずだった。

 

 ホームランを打たれた原因は「自分の甘さが出た」と分析する。“力負けは絶対にしない”という自信が仇となった一発だった。泉は「キャッチャーの清原(奈侑)はボール気味で構えていたんですが、自分は力で行こうとしてしまった。球の速さはあったけど、しっかりコースを突いて回転もかけないといけなかった」と反省する。

 

 開幕戦では思うような結果は残せなかったが、その時に味わった屈辱が、いまの泉の原動力になっている。「開幕戦の経験があって自分は成長できたと思う」との本人の言葉通り、第2節のSGホールディングス戦では2-1で完投勝利を挙げた。客席から聞こえてきた「待っていたよ。おかえりなさい」という温かい声援が、彼女をさらに奮い立たせたのだった。

 

 泉がソフトボールを始めたのは、小学1年の時だった。父・満がソフトボールのコーチを務めていたことで、必然的に泉もソフトボールの道に進んでいったのである。

 

第2回につづく)

 

プロフ<泉礼花(いずみあやか)>

1991年11月25日、香川県高松市出身。小学1年でソフトボールを始める。高松南高では国民体育大会、全国高校選抜大会、インターハイなど全国大会に出場した。園田学園女子大では、11、12年にエースとして2年連続で全日本大学選手権を制する。14年に日立サンディーバに入社。14年は6勝4敗をあげて新人賞を獲得。今シーズン成績は2勝1敗、防御率2.47。(前半戦終了時点)。24歳以下の日本代表TAP-Aにも選出されている。身長165センチ。右投げ右打ち。背番号「11」。

 

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(文・写真/安部晴奈)

 

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