5 小学1年生の時にソフトボールを始めた泉礼花は、父・満のスパルタ指導のもとで日々、練習に明け暮れた。毎日のトレーニングは、親が愛娘に課すメニューとは思えないほど厳しい内容だった。だが、負けん気の強い泉はへこたれなかった。彼女のピッチングの原点は、親子二人三脚で歩んできた幼少期時代にあった。

 

 泉は「お菓子が貰えるよ」という誘い文句につられて、地元のソフトボールチームに参加するようになった。当時の練習は、コーチを務めていた父・満が転がすボールを追いかけて捕りに行くだけのものだった。この単純な繰り返しが­­、泉は楽しくてソフトボールにハマっていった。

 

 ソフトボールのイロハを教えてくれたのは、コーチであり、父親でもある満だ。もともと野球経験者だったこともあり、その指導は厳しかった。小学3年から本格的にピッチャーのポジションを担うようになった泉は、毎晩、チーム内での練習とは別に父親と一緒に公園で特訓した。当時を振り返って、泉は「本当に嫌でしたね」と苦笑する。

 

 晩御飯を食べた後に、ピッチング練習することが泉家の日課だった。そのメニューは決まっていて、泉は父親が構えるミットに向かってひたすら投げ込む。投げたボールが構えたミットを逸れた場合は捕球すらしてもらえない。後ろに逸れた時は、自らが走って拾いに行き、息を整える間もなく再びミットに向かって投げ込んだ。

 

「当時は、父親のことが嫌いでした。“何でこんなに厳しいの?”と思いながらも、負けず嫌いだったので……」と泉。公園で練習する泉親子は、周囲から見ればまるで“現代版・巨人の星”のように映ったかもしれない。しかし、幼き頃のスパルタ練習の甲斐あって、泉はコントロールに磨きをかけた。

 

 泉の与四死球率を調べると、昨年1.37、14年1.15。四死球が1試合平均1個であることから、泉のコントロールがどれだけ優れているかが分かる。日立でチームメイトの山田恵里は「コントロールが良い­ので、野手も守りやすい」と証言する。長年日本代表のセンターとして、数々の栄光を勝ち取ってきた山田から見ても、その背中は頼もしく映る。親子二人三脚で過ごしてきた時間が、いまに生きている。­

 

 勝つことが快感

6 小学4年の時に、コーチだった父親が監督に就任すると、一段と泉に対する指導が厳しくなった。それでも泉は一度も「辞める」とは言わなかった。むしろ、“絶対に負けない”と闘争心を燃やした。

 

泉には2歳下の妹・花穂(日立サンディーバ)がおり、彼女もソフトボールを始めていた。姉妹は仲良かったが、その性格は真逆だった。父・満は「(礼花は)負けず嫌いな子でした。ピンチの時に、私がマウンドに行こうとすると“来るな”というような表情をしてきました。一方、妹はすぐに泣いていました」と、姉妹のキャラクターの違いを語る。

 

 泉は「アウトにすることが快感だったし、勝つことが快感だった。試合で負けると悔しくて眠れない夜もありました」と言う。とにかく負けるのが大嫌いな彼女にとって勝つことが、何よりも喜びだった。それはソフトボール以外の勉強や他のスポーツでも同じだった。

 

 父・満が、こんなエピソードを教えてくれた。

「クラス対抗の陸上競技会や運動会で徒競走に出ると、必ず1位を獲っていました。ただ足が速いというよりも、負けん気が強くて、相手に並ばれた時は“絶対に負けたくない”という気持ちが全面に出ていた。マラソン大会に出ると、陸上部からスカウトが来るほど頑張っていましたよ」

 

 ソフトボールの他に、水泳、ピアノ教室、英会話、書道、陸上など様々な習い事をしていたが、唯一続いたのがソフトボールだった。なぜなら、彼女にとってソフトボールが面白いように勝てるスポーツだったからだ。

 

 負けん気の強さは、今でも変わらない。理想の投球を問うと、彼女らしい答えが返ってきた。「内角をついてバッターを怖気づかせたい」。笑いながらもこちらを真っすぐと見つめる眼差しからは、彼女の胸に宿る闘志がヒシヒシと伝わってきた。

 

 小学校卒業時に140センチしかなかった身長は中学生になると、160センチにまで伸びた。小学校でチームのエースだった泉は、中学でもエースとして活躍。小中で全国大会に出場した泉は、地元の高松南高校に進学した。そこで、泉のソフトボール人生に大きな影響を与えることになる恩師と出会う。

 

第3回につづく)

 

プロフ<泉礼花(いずみあやか)>

1991年11月25日、香川県高松市出身。小学1年でソフトボールを始める。高松南高では国民体育大会、全国高校選抜大会、インターハイなど全国大会に出場した。園田学園女子大では、11、12年にエースとして2年連続で全日本大学選手権を制する。14年に日立サンディーバに入社。14年は6勝4敗をあげて新人賞を獲得。今シーズン成績は2勝1敗、防御率2.47。(前半戦終了時点)。24歳以下の日本代表TAP-Aにも選出されている。身長165センチ。右投げ右打ち。背番号「11」。

 

☆プレゼント☆

 泉選手の直筆サイン色紙をプレゼント致します。ご希望の方はこちらより、本文の最初に「泉礼花選手のサイン希望」と明記の上、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、この記事や当サイトへの感想などがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締め切りは2016年7月31日(日)迄です。たくさんのご応募お待ちしております。

 

(文・写真/安部晴奈)

 

shikoku_kagawa


◎バックナンバーはこちらから