野村克也風に言えば「勝ちに不思議の勝ちあり」か。そんな試合が続いている。交流戦をチームの過去最高勝率(6割4分7厘)で乗り切った広島カープが2位・中日に10ゲーム差(7月4日現在)をつけ、“独走”態勢に入ろうとしている。

 

 

 中日以下の5球団は、いずれも5割を割っている。貯金があるのは広島だけだ。


 本拠地での対オリックス3連勝が大きかった。連続サヨナラ弾を含む3試合連続決勝ホームラン。離れ業を演じたのは5番の鈴木誠也だ。


 東京の二松学舎大付高から入団4年目の21歳。高校時代までは投手だったが、プロ入りと同時に野手に転向した。背番号51、同じ姓、経歴も似ていることから「赤イチロー」と呼ばれている。


 広島ファンには既視感がある。1984年9月15日と16日。本拠地で巨人相手に長嶋清幸が2戦連続サヨナラホームランを見舞ったのだ。しかも打った相手は二枚看板の西本聖と江川卓。当の長嶋本人が「僕が一番びっくりしている。なんで打てたんでしょう」と目を丸くしていたのを思い出す。


 西本からの一発には伏線があった。9回裏、0対2で無死一、二塁。普通なら送りバントの場面である。フィールディングに自信のある西本は、あえてバントをさせ、三塁での封殺を狙っていた。甘く入ってきたストレートを長嶋は見逃さなかった。巨人バッテリーの狙いを見越してバントのサインを出さなかったベンチのファインプレーでもあった。


 この年、広島は2位・中日に3ゲーム差をつけ、4年ぶりのリーグ優勝を果たした。長嶋の“奇跡の2連発”がなかったら、どうなっていたかわからない。シーズンの余勢を駆った長嶋は日本シリーズでもMVPに輝いている。


 その意味で鈴木の2戦連続サヨナラ弾は、広島にとっては縁起の良さを感じさせる。もっとも96年には巨人に最大で11・5ゲーム差をつけながら大逆転負けを喫している。勝負どころは、まだ先である。

 

 

<この原稿は『週刊大衆』2016年7月11日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>


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