四半世紀ぶりのリーグ優勝を目指す広島が首位を快走している。7月18日現在、2位・巨人に10ゲーム差をつけている。

 それでも広島ファンの多くは、どこか落ち着かない風情だ。20年前の96年、巨人に最大で11.5ゲーム差をつけながら、大逆転された記憶が拭えないのだ。

 

 

 世に言う「メークドラマ」である。命名者は当時の監督・長嶋茂雄だ。

 

 この年、FA権を行使して広島から巨人に移籍した川口和久の証言。

「7月9日から札幌・円山球場で巨人主催の3連戦が行われた。最初の試合で2アウトから9者連続安打で7点を奪い、大勝したんです。その日からから長嶋さんが“おい、あるぞ。今年は何かあるぞ”と言い始めた。段々、僕らもその気になってきたんです」

 

 広島は4番を打っていた江藤智の負傷離脱が痛かった。8月29日の巨人戦でイレギュラーバウンドを目に受け、目の下を骨折してしまったのだ。巨人との戦力の厚みが明暗を分けたと言えるかもしれない。

 

 今季、メークドラマの再現はあるのか。私見だが、その可能性は低いように思われる。

 96年に比べ、今季のカープの選手層は比較にならない程厚い。4番のブラッド・エルドレッドが負傷してもエクトル・ルナがいる。阪神から復帰して2年目の新井貴浩も絶好調だ。備えあれば憂いなしとばかりに6月に入って新外国人リリーバーのスティーブ・デラバーも獲得した。

 

 むしろメークドラマがあるとすればパ・リーグではないか。一時は福岡ソフトバンクが独走し、最大時で2位・千葉ロッテに8・5ゲーム差をつけていた。

 

 ところが交流戦直後から北海道日本ハムが盛り返し、ソフトバンク戦3連勝を含む15連勝を記録。5ゲームにまで縮まった。

 

 日本ハムの栗山英樹監督は調子の上がらない4番・中田翔に代打を送ったり、二刀流・大谷翔平を「1番・ピッチャー」で起用するなど、采配に凄みが感じられる。ひょっとするとひょっとするかもしれない。

 

 

<この原稿は『週刊大衆』2016年7月25日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>


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