NPBとメジャーのべ6球団渡り歩いた中村紀洋さんは、日米通算2106安打、404本塁打を記録しています。自らを“打撃の職人”と称す中村さんに、今売り出し中のカープ、鈴木誠也について語ってもらいました。

 

 ペナントレースの後半戦が始まり、広島は貯金21で2位・巨人に11ゲーム差をつけてセ・リーグの首位を独走しています。広島の強みは打てる右バッターが揃っていることです。菊池涼介、新井貴浩、鈴木誠也らレギュラークラスに打率3割以上のバッターがごろごろいます。その中の1人、鈴木には、将来のホームランバッターの可能性を感じます。

 

 高卒4年目の今シーズン、打率3割2分3厘、13本塁打、56打点、11盗塁を記録しています(7月25日現在)。彼の魅力は思い切りの良さです。6月18日のオリックス戦で放った3試合連続決勝アーチは、推定135メートルの特大弾ホームランでした。バッティングはまだ粗削りな状態ですが、ホームランバッターとしての潜在能力、大きな打球を飛ばす力を持ち合わせていますね。

 

 一般的に若い選手は打率を求めるあまり、先にバントヒットや流し打ちなど“小技”を覚えようとします。しかし、そうするとバットを振れなくなった時にバッティングの“伸びしろ”がなくなります。極端な話ですが、僕が若い頃は“ホームランか三振のどちらか”という意識でバンバン振りまくりました。

 

 彼が今後ホームランバッターに成長するためにも、早いうちにバッティングのコツを掴んで欲しいと思います。昨季トリプルスリーを達成した山田哲人(東京ヤクルト)は、高卒3年目の13年はわずか3本塁打だったので、当時は中距離バッターかと思っていました。しかし、翌14年は29本塁打、15年は38本塁打を記録。恐らく、14年のシーズン前後にバッティングのコツを掴んだのでしょう。

 

 先程も言いましたが、鈴木は大きな打球を飛ばす力を持っています。ホームラン数を増やすためには、山田のようにバッティングのコツを掴むだけ。では、どうすればコツを掴めるのか。

 

 僕は98年に32本塁打を記録したシーズンにコツを掴みました。それまで、95年に20本塁打、96年に26本塁打を放っていましたが、なかなか30本の大台に到達しませんでした。当時は反対方向への打球は少なく、引っ張り専門だったのがその理由でした。

 

 そこで、僕は左バッターが引っ張ったような打球をライト方向に打つ練習をしました。その時に意識したことは、とにかくヘッドスピードを速くすることです。ヘッドスピードが速くなれば、それだけ打球にスピンがかかります。たとえゴロになっても、加速するように転がるので野手は捕球しづらくなります。ホームランの打ち損じがヒットになったことで、必然的に打率も上がっていきました。コツを掴んでからは、“スイングが少し遅れたな”と思っても簡単にライトスタンドに入るようになりましたね。

 

 バッティングのコツを掴む時期は、選手によってバラバラです。4月に2000本安打を達成した新井貴浩(広島)は、今季からライト方向への打球が増えています。恐らく、彼はプロ19年目でようやく、そのコツを掴んだのでしょう。山田のように若いうちにコツを掴む選手もいれば、新井のようにベテランになってから掴む選手もいます。

 

 鈴木が早くコツを掴むために、今は来たボールを積極的に振っていくことです。あとは状態が悪くなると、どうしても体の開きが早くなり引っ掛ける癖がついてしまうので、そこは一番気を付けて欲しいポイントです。とにかく結果を恐れずに、常に大きく飛ばすことを意識して打席に立って欲しいと思います。

 

中村紀洋(なかむら・のりひろ)

1973年7月24日、大阪府出身。92年にドラフト4位で近鉄に入団。プロ入り4年目から10年連続で二桁ホームランを記録。00年に自身初となる本塁打王(39本塁打)と打点王(110打点)のタイトルを獲得。13年に2000本安打達成。同年に史上18人目となる400本塁打を記録した。ベストナインを5度(96、99‐02年)、ゴールデングラブ賞を7度(99‐02、04、07、08年)受賞している。NPBとメジャーのべ6球団渡り歩き、14年に横浜DeNAを自由契約になる。日米通算2106安打、404本塁打、1351打点、打率.266。


◎バックナンバーはこちらから