7シーズン目を迎えたbjリーグも、19、20日の「ファイナルズ」をもってフィナーレを迎える。決戦地である有明コロシアムには、各カンファレンスセミファイナルを勝ち抜いてきた4チームが集結する。イースタンカンファレンス(東地区)からは浜松・東三河フェニックス(東カンファレンス1位)と横浜ビー・コルセアーズ(同2位)、ウエスタンカンファレンス(西地区)からは琉球ゴールデンキングス(沖縄・西地区1位)と京都ハンナリーズ(同3位)だ。18日には、前日記者会見が行なわれ、大一番を控えた4チームのヘッドコーチ(HC)たちが、チャンピオンリングへの意気込みを語った。
(写真:ファイナル4進出チームのHCらと河内コミッショナー<中央>)
 最多得点の浜松VS最少失点の横浜

 東地区のカンファレンスファイナルは、3連覇を狙う王者・浜松と今季からbjリーグに参入した新鋭・横浜というカードとなった。昨シーズン、浜松は現秋田ノーザンハピネッツの指揮を執る中村和雄HCに率いられ、史上2チーム目の連覇を達成した。そして、大阪エヴェッサが成し遂げた3連覇に並ぶことを目標とした今季の浜松の新指揮官に就任したのが河合竜児HCだ。だが、開幕当初は戦力が整わず、さらにキャプテンの岡田慎吾が椎間板ヘルニアを発症して長期離脱するという苦しい状況に陥った。
「(昨季のチームから)受け継ぐ部分は多かったので、これまで通りディフェンスからの速い展開を目指してはいたが、思うように、自分たちのバスケットが振るわなかった」
 河合HCはシーズン序盤をそう振り返った。

 だが「負けが込んだことで、開き直ることができた」浜松は、試合を重ねるごとに、連覇を成し遂げた王者の強さを取り戻していく。最大の要因は、大阪からローレンス・ブラックレッジが加入し、DFが強化されたこと、そしてジャメイン・ディクソンやジェフリー・パーマー、ジーノ・ポマーレらの外国人が調子を上げてきたことなどが挙げられる。そして、守備の要である岡田3月から復帰。チームNo.1のスピードを誇るガードの復帰で、DFからの速攻が機能しだした。病み上がりのため、プレーイングタイムを制限していたものの、現在はチームドクターからも全快との太鼓判を押されている。ファイナルズに向け「だんだん、(チーム作りが)完成に近付いている。この2日間で今シーズンの集大成をみなさんにお見せしたい」と自信を口にした。

 対する横浜は守備力が売りだが、河合HCは「(明日のポイントは)レギュラーシーズンでMVPをとったジャスティン・バーレル選手をどこまで抑えられるか」と高い攻撃力を誇る敵エースに警戒感を示した。また、横浜がbjリーグ史上最小平均失点をマークしたことに関しては「ウチもDFを売りにしてきた。そこで歴代最小失点記録とうたわれれば、(浜松としては)なおさら負けたくない」と強いライバル心をのぞかせた。
「どこまでDFが頑張れるか。なんとか我慢して、我慢して、必ず勝ちたい」
 リーグ1位の得点数を誇る浜松だが、あくまで売りはDF。従来通りのスタイルで3連覇に挑む。
(写真:3連覇に挑む浜松・河合HC<左>と横浜を参戦1年目でファイナルズに導いたゲーリーHC)

 一方の横浜は、今季からbjリーグに参入した。新規参入チームが地区決勝に進出するのは初めてだ。チームを率いるのは今季の最優秀コーチに選出されたアメリカ人のレジー・ゲーリーHC。チームの特徴は、「自分が選手の時からDFを売りにしてきた。DFが強いチームが勝つと信じている」とゲーリーHCが語るとおり、守備第一であることだ。
「5人全員で守る。そして、相手チームが、どのような強みがあり、どの選手が何をやりたいのかを理解する。その上で、やりたいことをさせない」
 これがゲーリーHCの守備の哲学だ。これらに基づいてつくりあげられたチームは今季、リーグ史上最小失点を記録した。平均得点はリーグ4位ではあるが、ドゥレイロン・バーンズの途中加入、開幕直後に負傷離脱した主将・蒲谷正之の復帰で、インサイド、アウトサイドとどこからでも点が取れるのが強みだ。

 リーグ1位の攻撃力を誇る浜松の印象を問われると、ゲーリーHCは「間違いなくDFのチーム」と答えた。
「スティールからのシンプルな攻めからの得点。いろんなDFで相手の攻撃リズムを崩してからの得点が多い」
 では、その相手をいかにして崩すのか。
「まず自分たちがやりたいように攻めることが大事だ。そして、毎回、いいシュートで終わる。逆に、その後のDFで、相手になるべく悪い形でシュートを打たせることを意識したい」

 今季のベスト5に選ばれた太田敦也とディクソン、さらに昨年のレギュラーシーズン&プレイオフMVPであるパーマー……。浜松はゲーリーHCが「本当に素晴しいチーム」と賞賛するとおり、厚い選手層を有している。そんな相手に、横浜が勝つため、そして王者になるためのキーワードにアメリカ人HCは「タフさ」を挙げた
「(最終決定戦までもつれ込んだ)セミファイナルの秋田戦で我々にタフさがあることを証明できたと思う。ファイナルズでもそういったタフさを見せたい。相手に6−0や8−0といった大量リードさせることは許さない。1秒も油断せずに40分間を戦いたい」
 開幕前に全19チームが参加して行われた代表者会議で、横浜のファイナル進出を予想した関係者は皆無だったという。そんな下馬評を覆してここまで来たからにはファイナルズでも波乱を巻き起こすしかない。

 沖縄は大物ルーキー、京都は“エキストラなパス”で勝負

 西地区は沖縄が4季連続のファイナルズ進出を果たす一方で、京都が大阪の牙城を崩してリーグ参入3季目で初の地区決勝に駒を進めた。

「去年のファイナルで負けて、その悔しさを胸に今シーズンずっと戦ってきた。レギュラーシーズン中もファイナルズで戦うための準備をしてきた。明日は、その執念をしっかり見せ付けたい」
 沖縄の桶谷大HCは会見の冒頭で、ファイナルズへの強い思いをこう口にした。
 その指揮官が率いる今季の沖縄は、レギュラーシーズンで39勝と東西カンファレンス合わせて最多の勝ち星を積み重ねた。特徴は得点と失点が両リーグでともに2位と攻守にバランスがとれていることだ。トランジション(攻守の切り替え)が早く、固いDFからの速攻は他の追随を許さない。

 その中心にいるのが、ルーキーでガードの並里成だ。類稀な瞬発力を活かして、チーム最多の63スティール。攻撃面ではチーム断トツの217アシストを記録している。また、鋭いドリブルからの得点能力も高い。桶谷HCも「並里が入ったことで、どこからでも得点の取れるバランスのいいチームになった」と高評価だ。新人ながら、もはや沖縄に欠かせない存在となっている。京都戦でも、並里のスピード溢れるプレーが観客を魅了し、相手には脅威を感じさせることは間違いない。
 対戦する京都について桶谷HCは「インサイドもアウトサイドも非常にバランスのいいチーム」と印象を語った。また、「しっかり止めどころを見つけて、それをしっかり遂行できるようにしたい」と試合のプランを明かした。

 沖縄のブースターの熱さはリーグでも有名だ。西地区準決勝(滋賀レイクスターズ戦)の第2戦目には、チーム史上最多の3413人が会場に詰め掛けた。大観衆は試合前からキングスコールを叫び続けた。それを聞いた桶谷HCは「感極まってしまった」という。
「こんな幸せなところに、自分は立っているというのに、何を自分はプレッシャーを感じているのだろう。本当に小さいなぁと思った(笑)。おかげで思いっ切りやろうと思えた。本当に幸せだと思う。期待に応えられるように最善の努力をしたい」
 
 対する京都は、参戦3季目となる今季、仙台89ERSを指揮してきた浜口炎HCを招聘した。さらに、外国人選手を総入れ替えし、チームを大きく変化させた。開幕直後の8試合は3勝5敗と負けが込んだ。しかし、その後は浜口HCの攻守における全員バスケがチームにフィットし始める。その成果として、第9戦目からは12連勝という西地区新記録を樹立した。レギュラーシーズンを終えて、西地区3位となった京都は、プレイオフにファーストラウンドから出場した。そして、ファーストラウンドの島根スサノオマジック戦、セミファイナルの大阪戦の2カードともに、最終決定戦を制して有明への切符を手にした。
(写真:ファイナルズは4季ぶりの京都・浜口HC<左>と4季連続の沖縄・桶谷HC)

 京都の強さを示すデータがもうひとつある。レギュラーシーズンで負け越したチームがいないことだ。これは19チーム中で唯一である。ファイナルズ進出チームとは、沖縄に3勝1敗、浜松と横浜には1勝1敗。中でも、沖縄には相性の良さを示している。ただ、浜口HCは決して油断していない。唯一黒星を喫した京都のホームゲームでの2戦目を例に出し、こう警戒した。
「沖縄のDFのプレッシャーから、第1Qに京都がターンオーバーを10個とられた。地区決勝ではその時のように、受け身にならないようにしたい」
 その上で、「沖縄だけのための練習はしていない」とも語り、ファイナルズとはいえ、特別な戦術をとることはないと明かした。
「沖縄は19チームで一番安定している。守備が強く、トランジションが速い。逆に京都はトランジションが遅いチームだと思っている。そこに気をつけながら戦えれば、何とかいい勝負に持ち込めると思う」

 失点数はリーグ3位と少なく、守備力は他のファイナルズ進出チームと比べても大きな差はない。問題は浜口HCも「全然ですね」と苦笑する得点力の低さだ。当然、勝つためには得点を奪わなければならない。
「ウチは確実に点を取れる選手がいない。横浜のように、バーレルにボールを放り込んで、スペースさえ確保すれば何とかしてくれるというパターンがない。なので、ボールを動かして、いい判断をしながら攻撃する必要がある。京都としては、エキストラなパスが出せるかどうかがキーになってくる」
 浜口HCの言う“エキストラなパス”とはどういうことなのか。
「沖縄は非常にチームDFがいい。たとえば、京都の選手がドライブで仕掛けて、そのままゴールに行こうとしても、ヘルプポジションに必ず誰かが入っている。そのヘルプに来られたところで、無理にシュートに行くのではなく、もう一つパスを(空いている選手に)出せるか」
 つまり、少しでもDFがいない状態でシュートを打てるかということだ。明日からのファイナルズでは、京都がいかにエキストラなパスから得点を奪うかに注目だ。

「4チームともチームの特徴が異なる」
 会見に出席したbjリーグの河内敏光コミッショナーは、ファイナルズの進出チームを見た感想をこう語った。また、優勝チームはわからないとした上で「自分たちのバスケができたチームが勝つだろう」と予想した。コミッショナーの言うとおり、今回は本命は存在しない。果たして、“自分たちのバスケ”でチャンピオンズリングを手にするのはどのチームか。bjリーグが7回目のクライマックスを迎える。

〜2011−2012シーズン ファイナルズ(有明コロシアム)〜

19日(土)
<イースタン・カンファレンス ファイナル>(14:10〜)
 浜松・東三河フェニックスvs.横浜ビー・コルセアーズ
<ウエスタン・カンファレンス ファイナル>(18:10〜)
 琉球ゴールデンキングスvs. 京都ハンナリーズ

20日(日)
<3位決定戦>(13:10〜)
<ファイナル>(17:10〜)