「金メダルを目指さないと銅にも引っかからない。ドウ(銅)にもこうにもならない」

「(キャプテンは)遠藤のまま、リオにワタリ(航)ます」

 U-23日本代表を率いる手倉森誠監督と言えば、ダジャレの人である。

 

 上記の発言は、リオ五輪本大会メンバーを発表した会見でのもの。緊張に包まれた硬い雰囲気であるほど、ダジャレを用いて場を和ませようとする。監督就任時に当時の原博実技術委員長が「試合前後のコメントやダジャレを見ていても余裕がある」と語るなど、お墨付きを得ていた。

 

「中東(中途)ハンパな戦いはできない」(オマーン開催のAFC U-22選手権を控えて)「南野のシュートはタクミ(拓実)」

「いろんな選手を試したい。スクラッチのくじみたいなもので、こすったら当たりか(コスタリカ)どうかチャレンジしたい」(コスタリカとの親善試合を前に)

「アジア最終予選で差が(佐賀)出るようないい合宿にしたい」(佐賀での強化合宿で)

 

 新聞報道などで集めてみても、枚挙にいとまがない。簡単なものから、「こすったら当たりか」のような強引なものまで“レパートリー”は実に幅広い。

 

 これらはメディアや対外向けだが、当然チーム内でもミーティングでダジャレを織り交ぜながら選手たちに言葉をかけている。「テグさん、また言っているよ」と軽く受け流されている絵が浮かぶ。しかしダジャレには、リラックスさせる、硬さや緊張を取るという効果がある。手倉森監督のチームマネジメントにおいて、ダジャレは必要不可欠なものと言える。

 

 今年1月、ラグビー全日本大学選手権で前人未踏の7連覇を達成した帝京大学の岩出雅之監督も、ジョーク好きで知られる。選手たちの表情を見ながら言葉でリラックスさせることを重んじる。

「僕は学生にどれだけ真剣な話をしても、20%ぐらいは笑いを入れます。僕が笑って言い始めたら学生も『今、リラックスモードに切り替えてるな』と感じてくれます。明石家さんまさんとか、テレビに出てきただけでみんな笑うじゃないですか。そういったふうにみんなが笑う用意をしてくれるので、ジョークのすべり防止にもなっていますけど(笑)」

 

 東海大との決勝戦。前半は硬さが目立った。5-5で折り返したハーフタイムで岩出監督は「楽しもう」と笑顔で送り出した。

「そう言ったほうが、いい顔をしてみんな(ロッカーから)出ていきましたね。リラックスすることで『自分の力を出し切ろう』となりますから」

 

 後半、地力に勝る帝京は相手を突き放して27-17で優勝を果たした。「楽しもう」という言葉が選手たちの重圧を取り除き、本来の力を引き出したのだった。

 

 手倉森ジャパンは日本時間5日午前10時、ナイジェリアとグループリーグ初戦を戦う。20年前の1996年アトランタ五輪。日本は初戦でブラジルを破る“マイアミの奇跡”を起こしながら、次のナイジェリア戦に敗れたことが響いて決勝トーナメントに進めなかったという因縁がある。

 

 某スポーツ番組のインタビューでダジャレをこよなく愛する指揮官はこう答えていた。

「銅メダルを取った48年前(メキシコ五輪)は3-1でナイジェリアに勝っている。アトランタ、北京ではナイジェリアに負けて、彼らが決勝まで行っている。勝てばメダルが見えてくるし、負ければメダルもないじぇ(ナイジェリア)」

 

 真面目に応じつつ、最後は笑顔で終わるというのが実にこの人らしい。

 選手から「テグさん」と慕われる指揮官は、どんなダジャレを使って選手たちをリラックスさせていくのだろうか。

 

 テグすね引いて、決戦を待つ。


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