体操競技は8日(日本時間9日)、男子団体決勝が行われた。予選4位の日本は274.094点で優勝。アテネ五輪以来の金メダルを獲得した。2位にはロシアが271.453点、3位には中国が271.122点で入った。

 

 栄光への架け橋は再び築かれた。日本はチーム全員で肩を組んでロシアの得点を待った。優勝はほぼ間違いなかったが、得点が掲示されると抱き合って喜びに沸いた。3大会ぶりの金メダルを奪還した。

 

 2日前に行われた予選はまさかのスタートだった。内村航平(コナミスポーツクラブ)をはじめ、田中佑典(コナミスポーツクラブ)、山室光史(コナミスポーツクラブ)、白井健三(日本体育大)がミスを連発。トップ通過の中国とは1.1点以上の差がつけられた。前回のロンドン五輪と同じ4位で決勝進出。救いがあるとすれば得点を持ち越さないことだ。1日明けての決勝は気持ちも新たに臨める。

 

 3位のロシアと第2班に入った日本は、あん馬からの第1ローテーション。トップバッターは内村だ。個人総合の絶対王者。団体でのタイトルへの想いは一際強い。あん馬の前でフーッと一息ついて、演技を実施した。集中した表情で美しい旋回を続けていく。出来栄えを示すEスコアは8.9点。合計15.100点をマークした。

 

 しかし、山室があん馬で落下してしまう。マイナス1.0点の過失。13.900点で内村に続くことはできなかった。演技後、山室はチームメイトに謝った。1人にミスがあっても他がカバーするのが団体戦の醍醐味だ。ロンドン五輪では山室の負傷で空いた穴を埋めたのが、加藤凌平(コナミスポーツクラブ)だった。加藤はブラジル勢の演技で会場が大きく沸くという非常にやりにくい状況ながら淡々と演技した。持ち前の強心臓ぶりを発揮し、日本は43.933点で6位スタートとなった。

 

 第2ローテーションはつり輪。田中、内村、山室が14点台後半をマークして順位は5位に浮上した。続く跳馬で日本は勢いをつけた。加藤が「ロペス」、内村が「リ・シャオペン」、白井が「シライ/キム・ヒフン」と、それぞれが持ちうる最高の技を披露した。3人が揃って15点台を叩き出し、2位で前半3種目を終えた。だが1位のロシアとの差は2点以上ある。得点を着実に重ねていかにプレッシャーをかけられるかが、逆転劇のカギを握っていた。

 

 平行棒から始まる日本の後半戦は、田中が1番手を務めた。田中は美しく正確な技を次々と駆使していく。フィニッシュの屈伸ダブルもきっちり決めた。Eスコア9.1点で15.900点のハイスコアを叩き出した。平行棒では加藤、内村も15点を超える得点を挙げて、ロシアを追い上げる。点差は1.3点に大きく縮まった。

 

 鉄棒はトップバッターの加藤が伸身の新月面で着地をピタリと止める。15.066点で内村にバトンを渡すと、内村も15.166点で続く。3人目は鉄棒のスペシャリストでもある田中。世界選手権では落下を経験している。どこか勝負弱い印象も持たれていたが、ここ一番で意地を見せた。安定した演技で内村と同じ15.166点をマークする。

 

 最終ローテーションを残して、ついにロシアを逆転した。だが、その点差はわずかに0.208点。大きなミスがあれば再逆転を食う可能性もゼロではない。序盤に出遅れた中国も追い上げてきている。日本の最終種目は床運動(ゆか)。まずはチーム最年少19歳の白井からスタートした。

 

 白井にとって、ゆかは世界選手権の種目別で2度頂点に立った得意種目だ。物怖じしない彼でも、容易い状況とは言えないはずだった。だが白井が「ゆかに運命がある」と語るように、まるで彼のための用意された舞台にすら映った。躍動感溢れるパフォーマンス。16.133点と最高の演技で先輩2人につないだ。

 

 白井が築いた流れを、次代のエース候補である加藤が引き継ぐ。内村に次ぐ日本屈指のオールラウンダー。決勝6種目中5種目を任され、安定感抜群の演技を見せてきた加藤はここでも15.466点で仕事を全うした。

 

 フィナーレはキングの登場だ。内村に始まり、内村に終わる団体戦だった。全6種目でほぼノーミスの演技。若干疲れを感じさせたものの、ゆかもきっちりと決めた。15.600点を最後に加算して、日本はトータル274.094点となった。2位のロシアとは47.407点、3位の中国とは47.938点の差だ。

 

 3人が演技して全員の得点が加算される団体決勝。ロシアは1人あたり15.800点以上、中国は15.979点以上が逆転には必要だった。15点台が高得点とされる体操競技において、ほぼセーフティリードと言ってもいい。結局、最終ローテーションをロシアは44.766点、中国は44.966点加えるにとどまり、日本の優勝が決まった。

 

 これまで幾度も世界の頂点に立ってきた日本。団体では1960年のローマ五輪で金メダルを獲得してから5連覇を達成した。世界選手権も含めると、78年世界選手権ストラスブール大会まで10連覇。だが、一度トップの座を明け渡すと、それ以降はライバル・中国の後塵を拝する日々が続いていた。日本は昨年の世界選手権でようやく中国の牙城を崩し、今度は五輪のタイトルも奪い返し、新たな歴史を作った。日本時間の朝、体操王国の夜明けを伝えた。

 

(文/杉浦泰介)

 

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