19日(日本時間20日)、レスリングの男子フリースタイル57キロ級決勝が行われ、樋口黎(日本体育大)はウラジーミル・キンチェガシビリ(ジョージア)に判定で敗れた。最軽量級での日本勢のメダル獲得は4大会連続となった。メダルを期待された74キロ級の高谷惣亮(ALSOK)は準々決勝敗退。同階級はハッサン・ヤズダニチャラティ(イラン)が制した。

 

 20歳の若武者が勇敢に世界へと立ち向かっていった。樋口は頂点にはわずかに届かなかったものの、銀メダルを獲得して日本軽量級のプライドを守った。

 

 世界ランキング10位の樋口は鋭いタックルを武器に勝ち名乗りをあげていった。1回戦はロンドン五輪55キロ級銅メダリストで14年の世界選手権を制したヤン・ギョンイル(北朝鮮)から10ポイント差以上をつけるテクニカルフォール勝ちを収めた。

 

 勢いに乗る樋口は続く2回戦もテクニカルフォール勝ち。準々決勝は怪力のヨウリス・ボネロドリゲス(キューバ)にスピードで圧倒。力技で4点を返されたが、8-4の判定で勝った。準決勝の相手は昨年の世界選手権銀メダリストのハサン・ラヒミ(イラン)。13年の世界選手権55キロ級王者にも樋口は臆することなく攻め続け、10-5で判定勝ちした。

 

 決勝は昨年の世界選手権王者で世界ランキング1位のキンチェガシビリと対戦した。ここでもアグレッシブにタックルを狙い続けると、キンチェガシビリにアクティビティタイム(30秒間でポイントを奪えなければ、相手に1点)が宣告された。ここは反撃を許さず、1点を先制して第1ピリオドを終えた。

 

 樋口はここで守りに入らず攻めた。第2ピリオド開始早々、片足タックルでキンチェガシビリを倒した。2ポイントを追加。欲を言えば、ここからさらに得点を積み上げたかったが、キンチェガシビリに耐え切られた。すると今度はがぶり返しを食らい、3-2と1点差まで迫られる。決して守りに入ったわけではないだろうが、試合時間4分47秒のところで、樋口にアクティビティタイムを科された。このあたりからキンチェガシビリが樋口の指を両手で掴む場面が目立つ。ロンドン五輪では銀メダル。今回こそはと意地があるのだろう。主審もキンチェガシビリに注意を促すが、樋口は30秒でポイントは奪えず3-3のタイとなった。

 

 残り41秒。逆転するには十分な時間である。樋口はポイントを奪いにいくが、ここでもキンチェガシビリが執拗に指を抑えにかかっている。反則ギリギリの攻防。日本陣営もたまらずチャレンジを申請するが、一度目は聞き入れられない。残り時間がカウントダウンされる中、依然としてキンチェガシビリは同じ対応で樋口の動きを封じる。そのままブザーが鳴り、日本陣営は改めてチャレンジを申請した。ビデオ判定でもジャッジは「NO HOLD」と覆らなかった。

 

 不本意な終わり方で樋口は決勝戦のマットを後にした。銀メダルにも笑顔はなかった。樋口は「内容は五分五分。勝てる試合だった。一番でなければ意味がないと思ってやってきた」と悔しがった。微妙な判定に泣くかたちとなったが、「一番になるためには何が足りないかを見つめ直して次のステップにしたい」と前を向いた。「東京では一番いい色を獲れるように頑張りたい」。樋口は4年後のリベンジを誓った。

 

(文/杉浦泰介)