広島東洋カープでスカウトとして活躍する松本奉文さんは、菊池涼介選手を発掘したことで知られる敏腕スカウトです。今回は、松本さんに、今夏の甲子園を沸かせた高校球児たちの有望性について聞きました。

 

 甲子園を通して評価を上げたピッチャーは、2人います。まずは、54年ぶりの優勝に輝いた作新学院のエース今井達也くんです。彼は線を引くような伸びのあるストレートを投げます。決勝戦では自己最速タイの152キロをマークしました。高校生で150キロ以上を投げる選手は、右投げの場合、左肩を上げて投げる子が多いのですが、今井くんは左肩を上げずに投げているので無駄な力が入りません。ゆったりとしたフォームであれだけのスピードが出ているので、これから鍛えれば今よりももっとスピードが上がると思います。

 

 2人目は、藤平尚真(横浜)くんです。彼は今井くんとは対照的に、ドーンとした力のあるストレートを投げます。ストレートやスライダーにキレがありますし、どの球種にしてもプロ1年目から通用するレベルです。先輩の松坂大輔選手にはスピードの面でやや劣りますが、いまの高校生の中ではトップクラス。

 

 サウスポーのドラフト1位候補は、高橋昂也(花咲徳栄)くん、寺島成輝(履正社)くんです。正直、高橋くんは、甲子園よりも予選の方が良かったのですが、それでも球威のあるボールを投げていました。かつて、甲子園を沸かせた左腕といえば、元巨人の辻内崇伸(大阪桐蔭)を思い出す方が多いと思います。彼は高校生ながら152キロを記録し、06年にドラフト1位で巨人に入団しましたが、プロでは実績を残せませんでした。その原因は、肩とヒジの柔らかさがなかったからだと思います。

 

 アドゥワ(松山聖陵)は隠し玉!?

 身長196センチのアドゥワ誠(松山聖陵)も面白い存在です。まだ体の線は細いのですが、長身を生かした角度のあるボールは魅力的です。彼はコントロールがあまり良くない印象を持っていましたが、甲子園ではそれを感じさせない見事なピッチングでした。チェンジアップでカウントを取れていましたし、三振も奪えていたので、彼のような選手をドラフトの下位で獲れたら面白いと思います。

 

 他にスカウトの中で名前が挙がるのは、高田萌生(創志学園)くんや堀瑞輝(広島新庄)くんです。高田くんは身長178センチと投手としては小柄ですが、今井くん(180センチ)と同じ152キロを記録しました。あの体格で150キロオーバーを投げるのはすごいこと。この先が楽しみな存在ですよ。

 

 サウスポーの堀くんは、キレのあるいいボールを投げます。巨人で活躍している先輩にちなんで“田口麗斗2世”と呼ばれていますが、2人を比べると田口のほうがもう少しスピードがありましたね。田口がドラフト2位だったので、恐らく3位か4位ぐらいだと予想しています。

 

 今井(中京)の打撃はT-岡田級

 野手では、今井順之介(中京)くん。僕は彼の担当をしているので、予選からずっと追いかけていましたが、今井くんは相手にほとんど勝負をしてもらえていませんでした。1試合4四球の時もありました。予選で本来のバッティングをさせてもらえず、甲子園にそのまま出場してしまったので、本来のバッティングができないまま終わってしまったという印象があります。

 

 今井くんは、T-岡田(オリックス)のような選手になりえる可能性を秘めています。課題はファーストしか守れないということ。「練習すれば他も守れるようになる」と言う人もいますが、今井くんはそこまで足が速くないので、守りに関しては努力が必要でしょうね。

 

 甲子園に出場していない選手で注目しているのは、鈴木将平(静岡高)くんです。50メートル5秒8の俊足は、すぐにでも一軍で通用するレベルです。さすがにレギュラーではありませんが、代走や守備固めで即戦力として使えるでしょう。

 

 ドラフト会議まで残り約2カ月です。いま名前をあげた高校生たちだけでなく、大学や社会人にも注目選手が揃っているので、今年のドラフトは豊作の年になりそうです。

 

松本奉文(まつもと・もとふみ)

1977年5月1日、広島県出身。亜細亜大を経て、00年ドラフト7位で広島に入団。04年にはウエスタン・リーグ打点王を獲得した。05年に自己キャリアハイとなる公式戦30試合に出場したものの、同年オフに自由契約となり、引退。翌年から広島のスカウトとして、出身校の亜細亜大をはじめ、関東・東海地区を担当している。


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