シアトル・マリナーズは現地時間23日、イチローがニューヨーク・ヤンキースへ移籍すると発表した。ヤンキースの若手2投手に金銭を加えての交換トレードとなる。2001年よりマリナーズに在籍したイチローは今季がメジャー12年目。マリナーズとの5年契約は今季が最終年だった。背番号はプロ入り以来つけてきた「51」ではなく「31」。ヤンキースは同日、シアトルでマリナーズ戦を行い、イチローは早速、慣れ親しんだセーフコ・フィールドで相手ベンチに入り、「8番・ライト」で“古巣”と対戦した。3回の第1打席で移籍後初ヒットを放ち、4打数1安打だった。
 メジャーリーグの世界でも数々の伝説を打ち立ててきたバットマンが、今後の野球人生を左右する大きな決断をした。勝利を義務づけられる名門球団への電撃トレード。より結果が求められる厳しい世界へ孤高のサムライは足を踏み入れた。

 移籍1年目での首位打者獲得、MVPに始まり、シーズン最多安打更新、史上初の10年連続200安打……。これ以上ない実績を残してきたイチローだが、ここ2年は苦しいシーズンが続いている。昨季は184安打に終わり、日本時代から17年続いていた打率3割も途絶えた。今季はトップバッターから3番に打順を変更して開幕を迎えたものの、成績はさらに下降。1度も月間打率が3割を超えることなく、95試合で105安打、打率.261にとどまっている。

 イチローにとっては今季が契約最終年だ。前回、新たに5年契約をマリナーズと結んだ際は前年の7月には合意に達していた。しかし、今回は来季の去就について、はっきりとしない状態が続いていた。

 そんななかで飛び出したヤンキースへの移籍である。イチローは会見で、オールスターブレイクの際に自ら考えた末の結論であることを明かした。マリナーズは今季もア・リーグ西地区最下位に沈み、プレーオフ進出が厳しい状況。球団としては来季に向け、若手主体のチーム編成に切り替えを考えなくてはならない時期だ。そんななかでイチローがチームにとどまっても決していいモチベーションではプレーできないだろう。それによって満足な成績が残せず、評価を落とすくらいなら、今のうちに自らを必要とするチームに移ったほうがプラスと本人も考えたに違いない。

 受け入れ先のヤンキースにとっても、イチローの外野守備力と足は大きな魅力だ。イチローの今季盗塁数(15個)はヤンキース内でトップになる。両リーグトップの150本塁打を誇る強力打線に、機動力が加われば3年ぶりのワールドシリーズ制覇に向けて鬼に金棒だ。またレフトのブレッド・ガードナーが故障で今季絶望のため、その穴埋めが期待できる。

 新天地での背番号は31に変わった。ヤンキースの51は06年まで在籍したバーニー・ウィリアムズがつけていた番号。98年にメジャー史上初めて、首位打者とゴールドグラブ賞を合わせて獲得し、ワールドシリーズ優勝に貢献した。近い将来の永久欠番化も見込まれる番号を背負うのは、さすがのイチローも固辞したかたちだ。

 ヤンキース・イチローのお披露目は、それまでの本拠地であるセーフコ・フィールド。一転、敵地となった球場は、11年半、マリナーズを牽引した男をブーイングではなく、スタンディング・オベーションで包み込んだ。31番のユニホームでヤンキースのスタメンに名を連ねた3回の第1打席、イチローがバッターボックスに入ろうとすると自然発生的に観客が立ち上がり、拍手を送る。イチローは感極まった表情でヘルメットをとり、深くおじきをした。

 しかし、感傷に浸ったのはここまで。元同僚のマリナーズ先発ケビン・ミルウッドの2球目をきっちり弾き返すと、打球はセンター前へ抜けた。移籍後、初打席初安打。すかさず盗塁も決め、常勝軍団の一員として求められている役割を果たした。試合はヤンキース先発・黒田博樹が7回3安打1失点の好投で10勝目(7敗)をあげた。イチローのヒットは1本だけだったが、ヤンキースが4−1で勝利した。

「一番勝っていないチームから、一番勝っているチームへの移籍。テンションの上げ方をどうしようかな」
 会見でイチローはおどけてみせた。メジャーリーグで多くの記録を打ち立ててきた安打製造機も、まだワールドシリーズのチャンピオンリングは手にしていない。この移籍は本人にとって願ってもないチャンスだ。一方で結果を出せなければ、ニューヨーカーの厳しい視線にさらされる。チームにとって不要となれば、今季終了後には放出される可能性も否定できない。
 
 果たして、38歳の決断は吉と出るか凶と出るか。その答えは自らのプレーで導き出す。