161006aliven「スポーツの指導者から学ぶ」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。スポーツ界の著名な指導者を招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行い、指導論やチームマネジメント法などを伺います。

 今回、登場するのは、ウエイトリフティング女子日本代表の三宅義行監督。現役時代は1968年メキシコシティ五輪フェザー級で銅メダルを獲得し、指導者としては娘・宏実選手を2大会連続の表彰台に導きました。選手指導の哲学について語ります。

 

 強くなる選手は練習から逃げない

 

二宮: リオデジャネイロ五輪で宏実選手の銅メダル獲得おめでとうございます。宏実選手が試技後、バーベルと抱擁する姿が印象的でした。

三宅: ありがとうございます。16年間の感謝の気持ちが表れたんだと思います。

 

大井: 選手を見ていて、“このくらい伸びるだろう”というのは大体わかるものなのでしょうか?

三宅: もちろん予想を裏切られることもありますが、ほぼわかりますね。僕には子供3人いるのですが、ウエイト向かないなと思った長男はやはりダメでした。「全日本には出られる」と予想した次男も、その通りになりました。中でも娘を見た時には“こいつは違うな”と感じましたね。普通のエンジンではなくて、ターボエンジンを持っていると。競技を最初に始めたその日に、“これは世界と戦える”と確信しました。

 

大井: 伸びる選手とは、どこが一番優れているのでしょうか?

三宅: しっかりとした目的を持っていると思うんです。だから、日常生活から常に練習を中心に物事を考えていますよ。どんな時でも必ず練習から逃げません。

 

 目標はあえて口に出す

 

161006aliven3二宮: 他にはどういった点が重要となるのでしょう?

三宅: 言葉はすごく大事だと思います。選手やアスリートはみんな競技が好きでやっている人が多い。その中で抜け出すには“目標はオリンピック”という想いを人一倍強く持っている。常に「オリンピックに出るんだ」と言葉に出している人が最終的にそうなっている気がします。

 

大井: 口に出すことは大事なんですね。

三宅: はい。人に言ったのだから、頑張らなければいけないと、自分自身にプレッシャーをかけることになりますから。

 

二宮: 有言実行ですね。

三宅: 急に伸びてきた選手をゆっくり観察すると、“こんな強い想いを持っていたのか”と分かりますからね。

 

二宮: それこそ社員も「私はこうなります」と口に出して言わないといけないかもしれませんね。

大井: そうですね。私も「あぁする」「こうする」と先に言ってからいろいろと組み立てていくタイプです。

三宅: 言葉にすることで実行しないといけないという責任が生じる。だから話すという行為はとても大切ですね。

 

 指導者に必要なのは包容力

 

161006aliven2二宮: 4年後には東京五輪も控えていますが、今後の目標は?

三宅: それはもう決めてあります。一応、75歳まで監督は続けるつもりです。東京までは絶対に行く。その先はまた別のことをやりたいと考えています。

 

二宮: 具体的には?

三宅: 今、スポーツ界は指導者が不足しています。指導者を育成していく仕事を80歳までの5年間でやりたいと思っています。

 

大井: 指導者になるために必要な資質は何でしょう?

三宅: やはりその競技を好きなことが一つ。もう一つは包容力です。グローバル化している中、国内だけでなく外国の文化を勉強しながらいろいろな形で子供たちと接することができないといけません。まずは指導者が外国に行き、様々の国や地域の文化を勉強して戻ってくる。外国語を勉強して、各国の競技団体や連盟ともコミュニケーションを取れる人が必要です。これまでも日本に不利なルール変更がされてきたのは、日本人がそういったポジションにいなかったから。だから、これからは若い人たちをどんどん世界へ送り出したいなと思っています。

 

 不可能を可能にする“想い”

 

161006aliven4大井: 不可能を可能にするためには人間の意識をどのようにトレーニングしていけばいいのでしょう。

三宅: 僕らはとくに重いものを挙げるわけですから、重力に反しているんです。上からモノは落ちるのに、下から挙げる。だから僕は不可能はないと思うんですよ。人間というのは無限の力を持っている。自分の思いと、周りの支えがあればできると。数十年前までは架空のものが今は現実になっていますよね。だから“やればできる”といつも思っています。

 

二宮: その時は“あり得ない”と思われていたことも、いつかは覆されることがある。それが50年後なのか100年後なのか。おそらく頭で考えられることはいずれ可能になるんでしょうね。

三宅: だから僕も常に挑戦しかないと思っています。それがなければできないです。リオ五輪でも娘はスナッチで8位だった。普通の選手はクリーン&ジャークで引っくり返せないですよ。

 

大井: あれは劇的でしたね。スナッチは2回失敗して、最後の3回目で成功。クリーン&ジャークの3回目の試技で3位に浮上しました。4位との差はわずかに1キロです。

三宅: そうなんです。「諦めるな。絶対に逆転できるよ。勝てるよ」と言っているうちに、本人もテンションが上がっていくわけですよ。本当はガックリきている。“こんなんじゃ金は獲れない”と。でも獲れないと思った瞬間から銀も銅も消えていくんです。 

 

大井: 心が折れてしまうのでしょうか。

三宅: それを立て直して、最後は5人を抜くことができた。“勝つんだ”“自分がメダルを獲るんだ”という強い想いがあったから、土壇場でも力が発揮できたんだと思います。皆さん、本当に応援ありがとうございました。

 

161006alivenpf三宅義行(みやけ・よしゆき)プロフィール>

 1945年、宮城県生まれ。現役時代は数々の国際大会で活躍。68年メキシコシティ五輪でフェザー級の銅メダルを手にし、金メダルを獲得した兄・義信氏と共に兄弟で表彰台に上がった。世界選手権では2度の優勝(69、71年)。現役引退後は指導者として、後進を育成。娘・宏実選手は2012年ロンドン五輪女子48キロ級銀メダル、16年リオデジャネイロ五輪では同級銅メダルに輝いた。

 

(写真/松井雄希、構成/杉浦泰介)


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