東京五輪パラリンピック開催が4年後に迫ったのを受け、多くの自治体が健康促進事業に積極的に取り組むようになってきた。

 

 高知県では<全国初の県と保険者によるインセンティブ事業>と銘打って、この9月から、「健康パスポート」を発行している。

 

 高知県には「献杯」「返杯」という独特の飲酒文化がある。基本的には目下の者が目上の者に「どうぞ、どうぞ」とお酒をつぐのが「献杯」だ。それを一気に飲み干すと、今度はお酌をしてくれた相手の杯にお礼のお酒を注ぐ。これが「返杯」だ。

 

 一度や二度ならともかく、これが宴会の間、延々と続く。プロ野球キャンプ取材などでよく高知を訪れたが、何度、天井が回っているのを見たことか。

 

 そう言えば、高知には「べく杯」なるお座敷遊びもある。コマを回し、止まった時に軸の向かっている方向に座っている人が、コマに書かれている図柄のべく杯を飲み干すのだ。べく杯には小さな穴が開いているため、指でふさいで飲み干さない限り下には置けない。私も酒好きだから最初は楽しいが、2時間もすれば地獄である。

 

 こうした飲酒文化が無関係であるはずがない。高知県によると、県民医療費は県民所得の17.5パーセントを占め、ひとりあたりの県民医療費は36万1千円で全国ワースト。また、ひとりあたりの入院医療費も16万6千円で全国ワースト。これは全国平均の1.7倍(いずれも平成20年度)である。

 

「高知県は他県に比べ、40~60代の働き盛りの男性の死亡率が高い。死因の多くが脳血管疾患、心疾患、そしてガン。健康づくりに取り組むきっかけ」(高知県健康政策部・谷聡子氏)として導入したのが「健康パスポート」である。

 

 手に入れるのは簡単だ。20歳以上の県民で検診や、スポーツ施設利用、健康イベント参加、献血などの諸条件を一定程度みたせば、県から交付される。

 

 特典もある。パスポートを提示すれば、県が指定するスポーツクラブの入会金やスーパーでの食品購入が割り引かれたり、ポイントが貯まったりするというのだ。

 

 団塊の世代が75歳以上になる2025年、医療・介護費は現在の1.5倍の74兆円に膨らむ見通し。介助を必要としない健康寿命を、いかに延伸させるか。「健康パスポート」は全国的に普及させたい取り組みのひとつである。

 

<この原稿は16年11月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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