視覚障がい者の転落事故を防ぐため、駅の安全強化を進めるべきだとの記事を書いたのは、今年2月のことだ。

 

 その際、社会福祉法人日本盲人会連合が2011年2月に実施したアンケート調査を引き、約37%の92人がホームからの転落を経験していることを紹介した。

 

 だが残念ながら、視覚障がい者の転落事故は後を絶たない。東京では先月9日、60代の男性がJR西国分寺の駅ホームから転落し、鎖骨を骨折。大阪でも先月16日、柏原市の近鉄河内国分駅で40代の男性が転落し、特急電車にはねられて死亡した。両駅ともホームドアは設置されていなかった。

 

 自分の身を守るため、「駅のホームでは風船ガムを噛みながら歩いている」と語ったのは障がい者陸上(T11クラス=全盲)でリオデジャネイロパラリンピックに出場した髙田千明である。

 

 なぜ風船ガムなのか。「一番困るのがホームの点字ブロックの上に人が並んでいたり荷物が置いてあること。そのため、私はひとりで歩いている時には白杖を強めに叩いています。“自分はここを通りますよ”とまわりに知らせるためです。しかし、地面を叩く音が同じリズムになると、なかなか気付いてもらえない。そこで考えたのが、風船ガムをふくらませ、パチンと割って鳴らすこと。中には大きな音に驚かれる方もいますが、お互いケガをするよりは、その方がいいと思ってやっているんです」

 

 話を聞いているうちに申し訳ない気持ちになってきた。私も大きな音にハッとするひとりなのだろう。東京オリンピック・パラリンピック開催が決まって、あちこちで“心のバリアフリー”という言葉を耳にするが、社会の隅々にまで浸透するには時間がかかるようだ。

 

 では具体的にどんな対策を講じるべきなのか。先のアンケートでは回答者の約90%の視覚障がい者がホームドアの設置を挙げていた。“心のバリアフリー”も大切だが、最も実効性が高いのはハード面の整備ということなのだろう。

 

 観光庁は1月からの10カ月間で訪日外国人観光客が推計で2000万人を超えたと発表した。オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には4000万人を目指す。当然、視覚障がい者や車いす利用者の安全対策は急を要する。文字どおり足元の安全確保に全力を挙げて欲しい。

 

<この原稿は16年11月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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