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(写真:再三再四ゲインしたマフィ<中央>はアルゼンチンの脅威になっていた)

「リポビタンDチャレンジカップ2016」が5日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、日本代表(ワールドラグビーランキング12位)はアルゼンチン代表(同9位)に20-54で敗れた。新ヘッドコーチ(HC)ジェイミー・ジョセフの初陣となった日本は、前半6分にSO田村優(NECグリーンロケッツ)のペナルティーゴール(PG)で先制するなど序盤は優位に試合を運ぶ。しかし、徐々にアルゼンチンにペースを掴まれると、合計7トライを奪われた。日本は欧州遠征に経ち、ジョージア代表(同11位)、ウェールズ代表(同5位)、フィジー代表(同10位)と対戦する。

 

 新生ジャパンの船出は黒星スタートとなった。

 

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(写真:先月20日に亡くなった平尾誠二氏を追悼し、日本代表の左肩には「12」が刻まれた)

「新しい景色が広がる段階」。就任会見でジョセフHCは日本の現状をこう評した。その「新しい景色」を目にしようと秋晴れの秩父宮ラグビー場には1万8000人を超える観衆が集まった。ジョセフHCが日本代表の指揮を執る最初の試合。昨年のW杯イングランド大会で躍進を遂げた日本だが、アルゼンチンは4強入りした強豪である。18年ぶりの来日となった南米の雄。いやが上にも期待は高まる。

 

 アルゼンチンがW杯組ベースのメンバー構成なのに対し、日本のスタメンはHO堀江翔太(パナソニックワイルドナイツ)、No.8アマナキ・レレィ・マフィ(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)、CTB立川理道(クボタスピアーズ)、FB松島幸太朗(サントリーサンゴリアス)ら8人のみ。残りの7人が代表デビューを飾るというフレッシュな顔ぶれとなった。

 

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(写真:「やろうとしているかたちはできた」と、正確なキックで日本の攻撃をリードした田村)

 日本のキックオフでスタートした試合。アルゼンチンのキャプテンでHOアグスティン・クリーヴィが「押されてリズムが掴めなかった」と口にしたように序盤は日本のペースで進んだ。山田章仁(パナソニックワイルドナイツ)とレメキ・ロマノ・ラヴァ(ホンダヒート)の両WTBが仕掛けて、敵陣へと攻め込んだ。敵陣深くゴール正面で相手の反則を誘うと、ショット(PGを狙うキック)を選択する。これを田村が難なく決めて、日本が先制に成功した。

 

 スクラムでもほぼ互角。Wキャプテンの1人・立川が「フィジカルで驚くことはなかった」と胸を張り、PR畠山健介(サントリーサンゴリアス)も「かなりいい手応えがあった」という。スポットコーチとしてスクラム強化を任された長谷川慎コーチ(ヤマハ発動機ジュビロ)の下、わずかな準備期間の中である程度の結果を残して見せた。

 

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(写真:SH田中はスーパーラグビーのハイランダーズでもジョセフHCとプレー。パイプ役も期待される)

 しかし、このままアルゼンチンが黙っているわけはなかった。12分、日本は左サイドで大きくゲインされると、WTBマティアス・モロニにぶち抜かれた。タッチライン際で飛びついた松島もあっさりかわされ、そのままインゴールまで侵入を許す。3-5とひっくり返された。互いにPGを決めて、6-8と競った展開を見せていたが、日本は守備ラインの穴を突かれ、何度もロングゲインされる場面が目立った。31分にPGで離されると、35分にはSHマルティン・ランダホ、SOニコラス・サンチェスの個人技でトライを決められるなど、6-21で前半を終えた。

 

 後半に入っても、アルゼンチンの攻撃の波に耐えられなかった。トライを重ねられ、6-35と引き離された。12分には敵陣深くに攻め込んで、最後はマフィがトライをもぎとったが、その後もアルゼンチンの攻勢だった。高い位置で奪おうとする意識なのか、1人がかわされて大きくゲインを許す。3トライを奪われ、13-54とほぼ勝利を決定づけられた。

 

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(写真:ジョセフHCが「選手たちの諦めない姿勢、我々の戦い方を象徴するプレー」と称えたトライ)

 それでも試合終了間際には意地を見せた。田村、立川らのコンビネーションで右へ展開すると、大外で待っていたWTBレメキ・ロマノ・ラヴァ(ホンダヒート)が突破した。ディフェンスを弾き飛ばし、抜け出す。最後はゴール右隅に飛び込み、トライを奪った。リオデジャネイロ五輪にも出場し、4位入賞に貢献したレメキ。15人制代表として今回が初キャップとなる試合で、セブンズでも生かされたスピードとパワーを発揮した。田村がコンバージョンを決めて、ホーンが鳴りゲームセット。34点差の敗戦でジョセフHCの初陣を勝利で飾ることはできなかった。

 

 選手たちは「アルゼンチンは強かった」と口を揃えたが、誰1人下を向いてはいなかった。2019年W杯に向けて新たなスタートを切ったばかりの日本が易々と勝てるほど、アルゼンチンは甘くない。加えて試合をこなして日本戦を迎えたアルゼンチンに対し、日本の準備期間は1週間程度。ジョセフHCは「選手たちを誇りに思う」と胸を張り、「序盤と終盤に我々がどういう戦いをするか示せた」と語った。

 

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(写真:堀江<左>立川<右>のW主将を両脇に従え、試合後の会見に臨んだジョセフHC)

 指揮官は「アタックは速い展開で、キッキングゲームでもボールをよく動かせた。セットプレーは非常に素晴らしかった。スクラムもよくできていた。ラインアウトではボールをキープし、相手にモールからのトライもさせなかった」と収穫を口にする。一方で「もう少し裏にキープして展開していれば2、3本トライをとれた。ディフェンスも相手のアタックを見極められなかった」と課題も挙げた。

 

 Wキャプテンの堀江と立川は「これから」と言うように、まだ“ONE TEAM”にはなっていない。「もう少し互いのクセを知らないといけない」と堀江。一方の立川は「自分たちのテンポでスピードよく運べて、スコアできた。ディフェンスは試しているところ。たくさんの反省点が出た。まだ完璧ではないが、絶対良くなる。少しずつ“ONE TEAM”になればいい」と前を向いた。

 

 完敗で幕開けとなった新生ジャパン。今後はヨーロッパへ旅立ち、3カ国(ジョージア、イギリス、フランス)でジョージア、ウェールズ、フィジーの格上相手との連戦が続く。3年後のW杯に向けて、チーム強化の糧としたい。

 

(文・写真/杉浦泰介)