160628topics1伊藤: 西崎選手にとって、パラ・パワーリフティングの魅力とはどんなところでしょうか?

西崎: まず、下肢障がいの選手がその障がいの程度に関係なく、体重だけでクラス分けされて戦うというわかりやすいところです。さらに、健常者の試合に出られるところも魅力だと思います。

 

二宮: それは面白いですね。たしかに健常者のパワーリフティング(ベンチプレス)と比べて、ルールはそれほど変わらないように感じます。

西崎: そうですね。制限時間や審判の判定基準、競技中の体勢など細かい点に違いはありますが、基本的には同じです。面白いのは、障がい者の方が健常者よりも記録で上回ることが多いんです。健常者の59キロ級の世界記録が170キロで、障がい者の同級は210.5キロ。なんと40キロ以上も差があるんです。


二宮: エッ!? それはすごい。障がい者の記録の方が良いというのは珍しいですね。他の競技ではあまり見られないことです。
西崎: そうかもしれませんね。記録が良い理由は、下肢障がいのある選手は普段の生活からずっと上半身の筋肉だけを使っているからと言う人もいます。でも一方で下半身の踏ん張りがきかず、バーベルを挙げる力に利用できないので不利と見る考えもあります。

 

伊藤: なるほど。障がい者選手が記録で勝っていることで競技へのモチベーションになりますか?

西崎: はい。僕はまだまだですが、健常者と障がい者の世界記録を比較したときに障がい者の方が強いということは、すごく魅力だと思います。

 

 「強くなったら挑戦したい」

 

二宮: この事実はとても興味深いですね。もしオリンピックにパワーリフティング(ベンチプレス)が採用されればパラアスリートもエントリーするでしょうね。

西崎: もちろん出られるのであれば、僕は出たいですね。今でも健常者の大会ルールに合わせることができれば、僕らも試合に出られるんです。たとえば世界選手権にもそれらをクリアできれば出場できます。もしパラ・パワーリフティングで現在世界記録を持っている選手たちが健常者の大会に出れば、確実に上位に入ってくると思うんです。

 

伊藤: それは世界記録を持っている選手が特別すごいのでしょうか、それとも全体的に障がい者の記録がいいのでしょうか。

西崎: 後者の方になると思うんです。健常者の世界記録保持者でも、その記録がパラリンピックでのメダル獲得に届いていないということがあります。階級によっては入賞も難しいかもしれません。

 

二宮: 現状ではそれほどまでに差があるんですね。正式競技の採用が難しいのなら、垣根のないスポーツとして東京オリンピック・パラリンピックの公開競技で実施しても面白いですね。

西崎: そうですね。健常者と一緒にスポーツをしようと思ったら、基本的にどちらかがルールを合わせなければいけないことが多いのですが、パワーリフティングはその部分がほとんどない競技なので、すごく面白いと思うんです。

 

伊藤: 陸上競技においては、走り幅跳びの義足選手のオリンピック出場を許すべきかどうかが話題になり「義足が競技においてアドバンテージになるのか」という議論がされています。しかしパワーリフティングでは義足などの道具は競技に関係しません。そこがとても興味深いので大きな舞台で、ぜひとも戦ってみてほしいですね。

西崎: ええ。国内では僕も健常者のパワーリフティング(ベンチプレス)の大会に出たことがあるんです。兵庫県の大会では優勝できて、実業団では3位でした。

 

二宮: すごいですね。国内トップレベルの大会への出場は?

西崎: 全日本選手権はまだありません。ただ標準記録をクリアすれば僕らでも出場は可能です。僕ももっと強くなって勝負できる実力がついたら挑戦したいと思っています。健常者の大会は参加人数が多いので、やはり面白いんですよね。自分の持っている記録をどれだけ更新するかだけでなく、国際大会のように相手との駆け引きも楽しめるんです。


(第3回につづく)

 

1607ch西崎哲男(にしざき・てつお)プロフィール>
1977年4月26日、奈良県生まれ。交通事故で脊髄を損傷し、車いす生活に。その後、車いす陸上を始めると2006年の世界選手権に男子400メートルで出場を果たす。2011年、陸上競技を現役引退。13年に東京五輪・パラリンピック開催が決定後、競技種目をパワーリフティングに変更し現役復帰した。翌年の全日本選手権の男子54キロ級で初優勝。同年のインチョンアジアパラ競技大会では6位入賞を果たす。今年1月の全日本選手権で自身の持つ日本記録を塗り替える135キロで優勝。4月にリオパラリンピック日本代表に内定した。乃村工藝社所属。


◎バックナンバーはこちらから