阪神の金本知憲監督はオリックスからFA宣言をした糸井嘉男の獲得に成功しました。金本監督は糸井を「センター1本」で起用することを明言しているので、来季はセンター糸井、ライト福留孝介、レフト高山俊という布陣になるでしょう。

 

「野球はセンターラインが大事」と言われるように、守備の要はピッチャー、キャッチャー、セカンド、ショート、センターのポジションになります。しかし、ここ数年、阪神には守備が巧く、打撃力も兼ね備えた外野手がなかなか現れなかったため、センターはコロコロと変わっていました。強肩で守備範囲の広い糸井がセンターに定着すれば、センターラインはかなり締まるでしょう。糸井の加入は、守備の面でも大きなアドバンテージになることは間違いありません。

 

 さて、­糸井の入団に喜ぶ一方で、気になるのが人的補償の問題です。28名のプロテクト枠に入らず、オリックスに獲られる選手は誰なのか。この点も気になるところです。

 

 補強ポイントはサウスポー

 オリックスの選手層を見ると、投手、野手ともに戦力はそこそこ揃っていることが分かります。しかし、まだ発展途上の選手が多い印象です。特に気になるのが、左の先発。今季のサウスポーの勝ち頭は4年目の松葉­貴大(7勝9敗)でした。それに続くのが2年目の山崎福也(3勝2敗)。2人とも良い素質を持っていますが、まだまだ経験が浅いです。左の柱になれるような選手が欲しいでしょうね。

 

 高額年俸の選手や複数年契約している選手はプロテクトから漏れていても、獲得を避ける傾向がありますが、オリックスは“高額年俸選手も獲りに行く”という強気な姿勢を見せています。仮に能見篤史のようなエース級がプロテクトから漏れたら、確実に獲られるでしょう。阪神は相手の思惑を考えて、慎重に28名を選ばなければいけません。

 

 続いて野手に話を移しましょう。オリックスは打って守れる外野手の糸井が抜けたことで、外野のポジションを1つ埋めるだけでなく、打線の強化もしなければなりません。人的補償で野手を補強する場合、打撃力か守備力のどちらを優先するのか。こればかりは、考えても分からなかったので、オリックスサイドがどう出てくるのか注目したいと思います。

 

 阪神の外野は糸井が加入したことで、さらに熾烈なポジション争いになることが予想されます。実力があるにも関わらず、出場機会に恵まれないのは可哀想なので、敢えてリストから外してあげるのも“親心”かもしれませんね。

 

 鳥谷の復活がカギを握る

 ­阪神は糸井に加えて、MLBから「4番・三塁手」として期待するエリック・キャンベル、守護神候補のロマン・メンデスを獲得しました。これでほぼ来季の戦力は整ったと言っていいでしょう。新戦力を加えたことでチーム力は上がったと思いますが、優勝を目指すためには、あともう一つ必要なことがあります。それは鳥谷敬の復活です。

 

 今季は打率.236、7本塁打、36打点と苦しんだシーズンでした。これまで不動のショートでしたが、打撃不振に陥ったことでシーズン後半からは若手の北條史也にポジションを奪われることになりました。

 

 来季はセカンド、もしくはサードに回るのか。それともショートにこだわり続けるのか。彼が自信を取り戻すためにも、心機一転、ショート以外のポジションで勝負した方がいいと僕は思います。新戦力が機能し、鳥谷が復活すれば、阪神は間違いなくセ・リーグ1強力なチームです。それだけに、来季は鳥谷の出来如何がチームのカギを握るでしょう。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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