matsuda1 全国大学ラグビー選手権8連覇を目指す帝京大学。11月20日に関東大学対抗戦グループA優勝を決め、金字塔に向かって邁進している。大学ラグビーを席巻する深紅の王者。司令塔を担うのはSO松田力也(4年)だ。1年時から主力としてプレーしてきたチームの大黒柱である。

 

 走って良し、蹴って良し、投げて良し――。松田は万能型のSOである。帝京大の岩出雅之監督も「ランもゲームコントロールもできる。身体も強く、逃げずにチャレンジする力がある。ひとつひとつのプレーが正確になってきている」と高く評価する。相手のディフェンスラインを切り裂く力強いラン。正確無比なプレースキック。インテリジェンス溢れるゲームメイク。どれを取っても、高いレベルを誇る。

 

 その能力の高さは対抗戦6連覇を決めた11月20日の明治大学戦でも発揮された。前半6分、敵陣深くに攻め込むと右サイドでボールをもらった。松田がグラウンダーのパスを送ると、芝の上を転がっていたボールはインゴール手前ではね上がった。大外から駆け上がったFB尾崎晟也(3年)はキャッチすると、後は前へ飛び込むだけでよかった。

 

 狙い通りの先制点だった。「裏にスペースがあるのは分かっていましたし、外にいた晟也とはずっとコミュニケーションを取っています。晟也とは一緒の画を見られているのは大きいと思います」。1歳下の尾崎とは、小学生の頃から同じラグビースクールに通っていた幼馴染みだ。中学以外は全て同じチームでプレーしてきた。「僕が一番パスを受けてきたんじゃないかと思います」と尾崎。後半18分にも尾崎のトライをアシストするなど2人には阿吽の呼吸ができている。「全ての能力が高いですし、常にアタックする気持ちを持ってはる」と“兄貴分”を尊敬している。

 

matsuda2 明大戦ではキックの正確性も目立った。コンバージョンキックは5本すべて成功。「みんながトライしてもらって得た大事な2点」と責任を持ってタスクを遂行する。対抗戦でのキック成功率は47本中42本と9割近い。モーションに入る前に踵でリズムを取るルーティン。今季途中からマイナーチェンジを加えるなど準備に余念はない。

「リズムを持って蹴る。入るタイミングだけを変えました。しっかりとゴールできるイメージができたら蹴っています」

 

 ジャパンでも期待される逸材

 

 1月の日本選手権で対戦したパナソニックワイルドナイツのSOベリック・バーンズは彼への賛辞を惜しまなかった。「ジェイミー・ジョセフHCに日本代表のスコッドに入れるべきだと提案したいくらい。TLのチームと何度か戦っていて同じようなパフォーマンスをしていたので彼は優秀な選手だと思います。ゲームコントロールに長けていて、フィジカルも強い。今日のゲームでもキックでピンチを脱出していた。10番として優れている」

 

matsuda3 ワラビーズ(ラグビーオーストラリア代表の愛称)の司令塔を担ったこともある男の声が届いたのか、その数カ月後に松田は日本代表に招集される。6月のカナダ代表とのテストマッチで初キャップを刻むと、スコットランド代表との2連戦ではスターティングメンバーに名を連ねた。だが刻んだキャップは手応えよりも自らへの戒めとなった。

「まだまだ力不足。自分に余裕がないことに気付きました。大学でも自分にプレッシャーかけるように意識しています」

 

 とはいえ対抗戦、大学選手権、日本選手権、日本代表……積み重ねてきたことで成長してきた。司令塔として視野も広がり、引き出しも増えた。

「4年間いろいろなことを経験させてもらって、外の声も聞こえるようになってきてました」

 報道陣からの質問にもハキハキ答え、時に笑顔を見せる姿が印象に残った。場の空気を読むことができ、力の抜きどころも分かっている。そういった点にも彼の賢さ、器用さが感じられる。

 

 岩出監督が「まだまだ成長する」と期待を寄せる22歳の好青年は、更に上を目指す。

「精度を高めた中での判断力、いかにプレッシャーの中でいいプレーをできるか。まだまだ満足はしていないので、そのレベルに達することできるようにしたいです」

 

 帝京大学は現在大学選手権7連覇中だ。この国のラグビーにおいてV7という数字は特別な意味を持つ。社会人の新日鉄釜石(1978~84年度)、神戸製鋼(1988~94年度)はいずれも語り継がれる伝説のチームである。当時の両チームに共通するのは優れた司令塔がいたことだ。釜石には松尾雄治、神鋼には平尾誠二という偉大なプレーヤーがタクトを振るっていた。学生には4年間の限りがあるとはいえ、これまでの3年間は松田も帝京大を牽引してきたひとりだ。

 

 前人未到のV8へ――。帝京大の万能型司令塔が、その力となる。

 

matsudapf松田力也(まつだ・りきや)プロフィール>

1994年5月3日、京都府生まれ。ポジションはSO。6歳でラグビーを始める。京都・伏見工で1年時と3年時に花園出場を経験。高校、U17日本代表に選出され、13年に帝京大へ進学した。1年生ながら関東大学対抗戦グループAの成蹊大戦で公式戦デビューを果たす。SO、WTBとしてチームの全国大学選手権5連覇に貢献。14年春にはU20日本代表に選ばれ、主将に抜擢されると、ジュニア・ワールドトロフィー優勝に導いた。2年生時からはSOとして活躍。今季からは副将を任されるなど全国大学選手権7連覇中のチームの大黒柱となった。今年5月には日本代表初選出。カナダ代表戦でデビューを飾ると、通算3キャップを獲得した。身長181センチ、体重92キロ。

 

(文・写真/杉浦泰介)