二宮: 神奈川県には横浜市や川崎市のような大都市から、西部地方には山間部や農村地帯もあります。都会と地方の両面を併せ持つ神奈川県は、まさに日本の縮図とも言えます。

黒岩: その通りだと思いますね。神奈川県の人口は約900万人。これはスウェーデンと同じくらいの規模です。二宮さんがおっしゃったように、横浜や川崎のような大都会もあれば、田園地帯も広がっている。山もあれば海もある。まさに、日本の縮図、ひとつの国のような存在なんですね。

 

二宮: その神奈川県の取り組みが成功すれば、ある意味、日本での成功の道しるべとなるのではないでしょうか。

黒岩: 我々はそのことを強く意識しています。

 

伊藤: 昨年12月には「国家戦略特別区域法」が成立しました。特別区では特例的な措置が認められ、より良いビジネス環境の創出が期待されています。

黒岩: 神奈川県では3つの特区が認められました。まずひとつは再生医療の拠点である「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」。それから県央に位置する相模原、厚木、藤沢辺りには「さがみロボット産業特区」。いわゆる生活支援として注目されている介護や医療のロボット開発の拠点となります。そしてもうひとつは神奈川県全域が拠点となる「ヘルスケア・ニューフロンティア」の国家戦略特区。これは未病を治して健康寿命を延ばしていこうというものです。県全域が特区として認められているということで、国のモデルになると考えています。

 

 "医療の出島"を目指す神奈川県

 

二宮: 日本の医療技術は世界のトップクラスだと評価されている反面、課題とされているのが強すぎる規制です。例えば「ドラッグ・ラグ」の問題。国内で新薬が開発されても、それを治療薬として承認を得るのに時間がかかり過ぎているし、海外で開発・発売されている新薬を日本で使えるようになるにも時間を要しているという声を、よく耳にします。こうしたことも特区ではスピードアップされていくのでしょうか。

黒岩: はい、そうですね。なぜ特区をつくったのかと言えば、まさに岩盤規制を打ち砕くことが目的なんです。実はこの特区は、他県との激しいプレゼンテーションでの競争の末に獲得したものなのですが、そのプレゼンテーションで私が言ったのは「医療の出島をつくる」ということでした。

 

伊藤: 「出島」とはインパクトがありますね。

黒岩: 「ここは特別なエリアだ」ということを表現するには一番ぴったりくる言葉かなと。現在は、どの規制をどこまで緩和していくのか、具体的な部分を詰めているところですが、準備は着々と進んでいます。9月25日には「かながわ医療機器レギュラトリーサイエンスセンター」がオープンしました。先ほども申し上げましたが、日本には医薬でも医療機器でも非常に高い基礎技術があります。ところが、それを製品化するというところが弱い。もたもたしているうちに、海外から目利きがやってきて、自国に持って帰り、製品化してしまうケースも少なくありません。そうすると、もともとは日本の技術で開発されたのに、日本人は高いお金を出して輸入しなければなりません。今、日本に求められているのはスピードです。そのためには途中にあるさまざまな規制を取っ払って、入口から出口がすぐに見えるようにしなければなりません。「かながわ医療機器レギュラトリーサイエンスセンター」は、最先端医療機器の早期市場化を促進するために設立しました。

 

二宮: さすがは「3歩先行く神奈川」ですね。

伊藤: 黒岩知事が重要視している「すぐやろう」ですね。

黒岩: はい、圧倒的スピード感をもって取り組んでいます。

 

(第3回につづく)

 

黒岩祐治(くろいわ・ゆうじ)プロフィール>
1954年9月26日、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学卒業後、1980年株式会社フジテレビジョンに入社。営業部、報道記者、番組ディレクター、報道キャスターを務める。2009年に退社し、国際医療福祉大学大学院教授に就任。11年3月に辞職し、神奈川県知事選に立候補。初当選し、同年4月、知事に就任した。


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