黒岩: 「さがみロボット産業特区」は、自立動作支援ロボットスーツ「HAL」を開発された筑波大学の山海嘉之教授の研究拠点ともなっています。

 

伊藤: 「HAL」は医療、福祉の面で今、大きな期待が寄せられていますね。

黒岩: はい、そうです。例えば、「HAL」を装着することによって、足の不自由な人も脳から発信する「歩こう」という信号をセンサーがキャッチして、モーターを回して歩くことができます。つまり、自分の足で歩くことができなかった人が、人の手を借りることなく自分自身で歩けるようになるんですね。

 

二宮: 「HAL」の研究拠点を「さがみロボット産業特区」に置いた一番の理由とは何でしょう?

黒岩: 神奈川県が目指しているのは「出口戦略」。「HAL」は未病を治すというコンセプトにおいても活用することができますから、どんどん現場で使っていこうというわけです。

 

伊藤: 足が不自由な人は、自分で動くことができるというだけで気持ちが違うようですね。例えば、高齢者の方で捻挫をして、自由に歩くことができなくなった人に、車椅子に乗ってバスケットボール体験会に参加してもらったんです。そうしたら「5年ぶりに風を切った」とおっしゃられた。「こういう感覚を味わうことができるのなら、車椅子もいいもんだね」と。自分の肉体を使って動くことができたわけではないけれども、アシストしてくれる道具を使って動くだけでも、気持ちが前に向かうんですよね。自分で歩く感覚をもてる「HAL」なら、さらに喜びも大きいはず。未病を治すひとつの大きなアイテムになりますよね。

 

 新スポーツ誕生の可能性広げる「HAL」

黒岩: ただ、日本の医学の世界というのは、非常に規制が厳しく、ある意味、閉ざされた領域です。その中にとどまっていると、なかなか前には進まない。一方、工学の世界もまた、例えばロボットの技術開発は進んでも、実際のユーザーを増やしていかなければ何もならない。そこで、未病を治すというコンセプトの下、医工連携でやっていこうと。こういった我々の考え方に山海先生も賛同して、この神奈川に拠点をつくってくださることになったんです。

伊藤: これは運動やスポーツにもつながっていく話ですよね。

 

二宮: 高齢者だけでなく、障がい者にも大きな期待がもてますね。

黒岩: そうですね。今は足の不自由な人が車椅子に乗ることで、陸上やテニス、バスケットボールができるわけですが、将来的には「HAL」を装着して行う競技もできるのではないでしょうか。

 

二宮: いずれ、パラリンピック競技になる可能性もないとは言えない。

伊藤: 例えば、重度障がい者のために誕生した電動車椅子サッカーという競技があります。パラリンピック競技ではありませんが、2007年からは4年に一度、W杯が開催されているんです。これは、電動車椅子という道具が開発されたからこそできたスポーツ。このようにして新しい道具の開発によって、障がいのある人がスポーツをする機会が増えています。「HAL」の開発は、障がい者スポーツの領域をさらに広げてくれるはずです。

 

(第4回につづく)

 

黒岩祐治(くろいわ・ゆうじ)プロフィール>
1954年9月26日、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学卒業後、1980年株式会社フジテレビジョンに入社。営業部、報道記者、番組ディレクター、報道キャスターを務める。2009年に退社し、国際医療福祉大学大学院教授に就任。11年3月に辞職し、神奈川県知事選に立候補。初当選し、同年4月、知事に就任した。


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